パインとココナッツとお母様【8】
……ああ、もうっ! 普通に空飛んで帰ろうかなっ!
こんな事を真剣に模索する私が居た頃、
「か〜たま、一つ提案なんだお? トウキを知らない田舎者のココナッツしゃまは、トウキの座標を知らないから危険が一杯、胸一杯! アリンの未来のお胸も一杯大きくなりゅんだけど、トウキ生まれのトウキ育ちのアリンなりゃ、ちゃんと帰れるお〜?」
アリンがニコニコ笑顔でおかしな事を言って来た。
果たして、
「オイ、アリン……お前はリダ様の娘だろう? ちゃんとDNAと言う物を受け継いでいるのだ? 未来のお前が辿るのは雄大なカントー平野を彷彿させる真っ平な世界だ。これはこれで素敵な事ではないか? 軽くてコンパクトな胸元! 立っていてもつま先が見える視野角! 夏場は汗疹に一切悩まされないフラット・ボディ! 唯一のマイナスは色気がない!」
ドォォォォォォォォンッッッ!
いつの間にか復活を果たし、途中でしゃしゃり出る形で口を開いていたアホ勇者が再び爆発していた。
一見するといつも通り私に爆破されていた様に見えるが、実はちょっと違う。
今回は私の愛娘も、額に怒りマークをくっ付けて爆破魔法を発動させていた。
ふ……血は争えないな!
発動タイミングも含め、絶妙なまでに私と同じ動きをしていたのだから!
「アリンはちゃんと成長するもん! か〜たまの遺伝子だけじゃなくて、と〜たまの遺伝子が頑張りゅから大丈夫だもんっ!」
「そこは、か〜たまの娘だからと言いなさい、アリンちゃん……と、それよりも……空間転移をアリンがやると言うのか?」
「そうだお! 危険が一杯、アリンの未来のお胸ぐらい一杯一杯!」
どうしても、そこは譲れないんだな……。
アリンの成長した姿は、他の並行世界ではあったが、一度ばかり見た事がある。
そんなアリンちゃんは、私にミラクル酷似した可愛らしい美少女だったぞ。
もはや、双子と言う表現よりも鏡に映した自分を見ているレベルだったぞ。
もちろん、爪先から頭まで全部、な!
これ以上は言わないのさっ!
言ったら、絶対に悲しくなるヤツ!
「みなさん、どうかしておりますね? 私はトウキに何度か足を運んだ事があるシテーな女神だと何度説明すれば納得して頂けるのですか?」
シティーからシテーになっている様な人の言う事なんかアテに出来ないのですがっ⁉︎
かなり真剣な顔になり、己の自尊心を露骨に全面へ押し出す態度を見せていたココナッツ様に、私は余計不安を抱いて仕方なかった。
……はぁ、やれやれだ。
「アリン……お前、空間転移魔法は、完全にマスターしたのか?」
「もちろんだお! もう、完璧なんだお!」
私の問いに、アリンは秒を必要とせずに頷いて来た。
かなりの自信だ。
事実、アリンの言葉にはちょっとだけ裏付けられる物がある。
少し前に行われた剣聖杯での出来事だ。
剣聖杯の本戦で、ポップコーンを食べ終わるまでは試合に出ないとアホな寝言を語っていたルミを、観戦席から闘技場へとワープさせていたりする。
然りげ無く……かつ、自然な振る舞いからやってのけていたのだが、あの様子を見るとあながち嘘と言う訳でもないだろう。
ポイントは、対象が『ルミ』である事だ。
対象がアリンだけであった場合……異空間へと引き摺り込まれる様な亜空間へと放り出されても、色々と慣れが生じて、上手に引き込まれない様にする為のコツを掴んでいるだけ……と言う可能性がある。
しかしながら、これがルミもしっかりと空間転移させているとなれば、話は大きく変わって来るだろう。
女神や悪魔が使う空間転移魔法と、アリンが使用する空間転移魔法は、似ている様で大きく異なる。
簡素に言うと、悪魔や女神が使う空間転移は『時空を越える』魔法でもあるのだが、アリンが使う魔法は空間だけ越える事が出来る魔法なのだ。
どうやら、人間が禁忌とされているのは『時空を越える事』にあったらしく、空間を越える……つまり空間転移その物に関しては、ちゃんと発動させる事が可能らしい。
よって、アリンなりに色々と改良する事で、人間でも可能な空間転移魔法と言う物を編み出したのだが……ここに大きな問題があるのだ。
A地点からB地点まで、直接『時空を越える魔法』を発動し、空間の概念をハナから無視して、AとBの空間を飛び越えてしまうのが、悪魔や女神の空間転移なのだが……アリンの場合はここにワンクッション置いている。
時空ではなく空間のみにする為、A地点にまず亜空間を設置し、亜空間を抜ける。
この亜空間は、トンネルの様な構造で時間を飛び越える事は出来ない。
ここで禁忌の回避を行なっている訳だな?
そして、このトンネルの先にあるのが目的地であるB地点。
トンネルと表現したが、トンネルの長さは非常に短いので、実質ゼロに等しいだろう。
しかしながら、私は言いたい!
この『トンネル部分』に入った事で、いつぞや異次元に引き込まれそうになってしまった事実を!
あれは、まじで恐怖体験の何物でもなかったぞっ!




