リダさん、裏山探検に向かう【11】
トリックスターのアナンシと言えば、色々な姿に変化しては人を驚かしたりするイタズラ精霊。
大体は老婆だったり、おばさんだったり......若干年を取った女性の格好をしている傾向にある。
だからだろうか? 地方によっては『ナンシーおばさん』と呼ばれてる。
ただ、このアナンシは別におばさんの格好しか出来ない訳ではない。
場合によってはモンスターに姿を変える事も可能だし、今の様に綺麗な男性の姿になる事だって可能だ。
つまり、大体の者には変化する事が可能なのだ。
......とは言え。
「お前程度の下級精霊が、最下層の門番なのか?」
これには拍子抜けだ。
この一個上の巨大飛竜だって、それなりの強さがあった。
もう、確実に練習のダンジョンボスではないレベルだ。
しかし、その先にいるのだろうダンジョンのラスボスが、モノマネで人を騙す事しか能がない下級精霊だったのには驚きだ。
......いや、拍子抜けとでも言い換えるべきか?
「昔の私であったのなら、その言葉がしっくり来るかも知れないね......種を明かしたら、上の巨大飛竜の方が強いだろうからさ?」
「そうだよな?」
けれど、ヤツは自分の名前を言った。
場合によっては、この時点で種明かしをしている様な物だ。
よしんば、そうではないにせよ、
「一度、種を知ってしまったら、もうここに来る必要がなくなるぞ」
「......そうそう。お陰様で、一度13階層までクリアした生徒は、もう二度とこの階層にやって来る事はないよ......たまに気晴らしに来る人がいる位かな」
アナンシは、自虐的な笑みを軽く作りながら答えた。
理由は簡素な物だ。
十二階のボスがインパクトのあるモンスターだけに、その更に下の階層......つまり、このダンジョンのラストに位置する所にいる存在は最初から強い存在だと思って進んで行く。
そこに、凶悪なモンスターに化けたアナンシが出現すると......攻略側はかなり脅威に感じてしまう。
つまり、ハッタリだ。
能力的にはそこまで強くもないのだが......見た目だけなら、神様にだってなれる。
最後の関門は、このアナンシに騙されない事がポイントとなる訳だ。
しかし、だ?
仮に踏破してしまった場合、もう既にハッタリである事は分かっているので、冒険者としての修練にはならない。
練習場のダンジョンを、ここまで攻略して来る熱心な生徒であれば、再びここにやって来るのは時間の無駄だろう。
......。
もしかして、ユニクスはこの事を知っていたから、サッサと一人で抜けて行ってしまったのだろうか?
特に根拠があったわけじゃないんだが......なんとなく、そんな気がして来た。
まぁ、良いや。
「ハッタリだと分かってるのなら、もうクリアで良いか?」
「これまでなら、それでクリアで良かったとは思う......けれど、ここで私は君達に言いたい。どうして自分から戦う前にこの種を明かしたのか? と言う事だ」
「お前が勝手にバラしてた様にしか見えないんだが?」
パラスは、眉をよじって呟いた。
中々に鋭い指摘だった。
少なくとも、私にもそうにしか見えなかったからだ。
もっと、率直に言うのなら、
「ごめんなさい、アナンシさん......その、失礼だとは思うのですが、私には貴方がただのバカにしか見えませんでした」
あっけらかんと言うルミ姫がいた。
言葉使いとかは上品だけど、言ってる事は失礼千万だった。
まぁ、私もルミと同意見なんだけどさ?
「......ふ、言ってくれますねぇ」
あ、ちょっと怒ってる。
まぁ......そうな?
お前にも考えがあって、そうしてるって事だけは分かったよ。
でも、今のままだと、お前......ただのアホでしかないぞ?
「私は『あのお方』によって、新しく生まれ変わったのです......ふふ」
不敵な笑みを色濃く作るアナンシ。
地味に演技掛かっているのは、普段からハッタリばかりかましているからなんだろうか?
「私のこれまでの能力は、様々な物や者に変化する力『だけ』でした」
......そうそう。
例えば、神様になったとしても、能力はアナンシのままだった。
「ですが......『あのお方』によって、私の能力は強化され......変化した者の能力までコピーする事が可能になったのです!」
「......は?」
私はちょっとポカンとなった。
もし、それが本当であるのならだ?
「その気になれば、私は神にだってなれる!」
.........。
いや、それ反則じゃね?




