【4】
そりゃ、そうなるよな。
実際問題、炎神は人間がどうこう出来る相手ではない。
私だって、SS帯のランクを誇るパーティーと偶然組めたから、炎神がいるらしい火山地帯のダンジョンに挑む事が出来たんだ。
昔の私は普通に冒険者として色々なクエストを受注してたのだが、その時の副産物みたいなモノだ。
様々な幸運もあって、アグニと友達になれたんだからな。
そうじゃなかったら、幾ら紋様魔法だと言っても、本人が召喚される事なんかないね。
元々、紋様魔法は対象となる相手から少しだけその能力を拝借する魔法だし、それを極めると確かに本体が出て来るのだが、そこには限界もあるし例外もある。
流石に神様はポンポン出て来ないモノだ。
まぁ、なので、これは私だけが出来る、私オリジナルの紋様魔法だな。
………あ、違う。
みかんもやれるな……でも、あいつはチートキャラだし……。
なにはともあれ。
「あ………ぅ………ぅぅ………」
顔面蒼白のペッタン子は、座り込んだまま呻きとも悲鳴とも付かない声を吐き出すしか、他に出来なかった。
「どうだ? 降参するか?」
座り込むペッタン子に私はニッと笑みを向けて訪ねた。
コクコクと、顔だけ何回も縦に降った。
そこから、アグニの声がやって来た。
『私にどんな用件だ?』
「用件? ああ、取り合えずコイツをビビらせる事だ」
ペッタン子を指差す私。
『やれやれ。久しぶりに会ったと思えば、下らない事で呼んでくれた物だ』
そう言いつつ、アグニは軽くペッタン子を見据える。
「ひぃぃっ!」
ペッタン子は真っ青な顔のまま、座った状態で後ろに逃げる。
そこまで怖がらなくても良いと思うぞ。
こう見えて、炎神は穏やかな方だ。
正確に言うのなら、ちゃんと理知がある。
短気な人間より全然マトモだ。
まぁ、下手に怒らせてはいけない相手ではあるんだがな……。
『ほう、これは……面白い』
うん?
何故か、アグニは楽しそうな顔になった。
『中々の魔力だ。まだまだ未熟ではあるが、成長の延代はかなりの物だぞ』
へぇ~。
なるほど、そうなるのか。
冷静に考えれば、ペッタン子の実力は年齢から見るとかなりの物だ。
私が十五の時と比べると、確かに凄いと思うフシがある。
今の私だから圧勝出来るだけであって、ペッタン子にもそれなりの場数と経験を積ませてやれば、私と同等かそれ以上になる可能性もあるわけか。
「そいつは確かに面白いな」
『そうだろう? ふふ……中々楽しい物を拝見させて貰った』
気を良くしたアグニは、そこで右の掌を軽く上に向けた。
すると、真っ赤な光の珠がアグニの手から産まれる。
紅蓮の炎を連想させる光の珠は、ゆっくりとペッタン子の頭上にやって来ると、
パァァァンッッッッ!
まるで、鳳仙花の種の様に弾けた。
同時に綺麗なプリズムの欠片が周囲にキラキラ舞い上がる。
まるで手品だな。
「す……すごい………」
ペッタン子は恐怖を忘れて、その光景に観入っていた。
その幻想的な美しさは、私も一見の価値ありと評価したい。
時間にしてわずか数秒。
しかし、その数秒間だけ、オーロラが地表に降り立ったかの様な七色のプリズム達がペッタン子を包んでいた。
そして、弾けたプリズムの中から、赤い宝石が付いたペンダントが出現する。
………なぬ?
いや、それは少し大盤振る舞いなんじゃないのか?
赤い宝石の付いたペンダント。
これだけを見ても値打ちがある代物に見えるのだが、そうじゃない。
これは、アグニのアミュレット。
そこらの紋様で作った加護とは別格の魔導器だ。
『面白い物をみせてくれた礼だ。受けとれ』
「これは……?」
フワリと舞い上がり、ペッタン子の両手にゆっくりと収まったアグニのアミュレットを見て、少しだけ不思議そうな顔になってた。
まぁ、こんなの普通の人間じゃ見る事も出来ない代物だしな。
当然、分かりようがない。
『そうだな、それは私の分身。装着してごらん?』
「はい! アグニ様!」
言われるままに、ペンダントを装着する。
刹那、ペッタン子から尋常ではない炎のエナジーを感じた。
まぁ、そうなるよな。
そして、案の定……装着出来るのか。
こんな事を言ったのは、他でもない。
あのアミュレットは相手を選ぶ。
装着した人物に一定の能力と魔力がないと、ペンダントが自分から離れてしまう。
それでも強引に着けようとすると、ペンダントは壊れてしまうんだ。
つまり、相応の実力がないと、そもそも着ける事すら出来ない。
だが、装着する事が可能だった場合、炎神の祝福を受けて最大限の加護を受ける事が出来る。
簡単に言うとだ? そのアミュレットを装着している限り、炎神の力を二十四時間フルタイムで受ける事が可能になるわけだ。