パインとココナッツとお母様【3】
「ちょぉぉぉぉっと待ちましょう! そこは大きく駄目です! 凄く駄目です! 別段、ココナッツの事を私は悪く言うつもりはないですし? あなたが誠意を込めて謝罪してくれた事も認めますよ? ええ、そこは溜飲が下がる思いです! 気分もサッパリして清々しいです!……ですけど! それとこれとは別の話だと思いませんかっ⁉︎ 違い過ぎて、何処から講釈を垂れて良いのか分からなくなってしまってますよ、パインさん! 取り敢えず、言葉は要らないです! 直ちにミナトさんからは〜な〜れ〜ろぉぉぉぉっっっ!」
直後、パインが素早く動いては、直情的に抱きしめている様にしか見えないココナッツ様に近付いては、熱り立った顔になってミナトから引き剥がそうとしてみせた。
……だが、ココナッツ様は全く離そうとしない。
ふむ、見る限りで腕力はパインよりもココナッツ様の方が高い様だな。
必死でミナトから離れさせようとしているパインの力を、ココナッツ様は完全に無視する形で自分の懐にミナトを引き寄せていた。
「ぐはぁっ!……おい、パインッ! お前、俺を殺す気かぁっっ!
ここで困ったのがミナトだった。
最初はココナッツ様の腕を取って引き剥がそうとしたのだが、全く微動だにしないと言う事が分かると……今度はミナトの身体を掴んでは、強引に離れさせ様としていたからだ。
女神の腕力は、人間の視点からしたら万力にだって匹敵する。
もちろん、その様な規格外の力で強引に引っ張られたのであれば……まぁ、死ぬほどの苦しみを負うのは火を見るよりも明らかで……。
その結果、ミナトは最終的にパインとココナッツ様のダブル・パワーの前に口から泡を吹き出す顛末を迎え……敢えなく卒倒して行く事になってしまうのだが、愛嬌と言う事にして置こう。
私的に言うのなら、ミナト少年は中々のタフガイだと思うぞ?
普通の人間であったのなら、ほぼ間違いなく内臓破裂で三千世界逝きだったに違いないのだから。
……そんな、ミナトが頑丈で良かったと、地味にコミカルな空気が無造作に出来上がっていた頃、
「ふふ……やっと、昔を思い出してくれたみたいね」
軽やかな口調で、りんごさんが声を吐き出していた。
ちょっと前にココナッツ様が答えていた『母親』発言により、そこはかとなく機嫌を損ねていた模様ではあるのだが……けれど、比較的温和な笑みを作っていた模様だ。
こんな態度を取っていたのは他でもない。
何気に、りんごが見たかった構図が、今のパインとココナッツが見せる態度であったからだ。
まぁ……内臓破裂級の苦しみを受け、見る間に顔を蒼白にしては、嫌な汗が止まらなくなってしまったミナトの姿はともかく。
「パインとココナッツはいがみ合う存在じゃないわ? 協力し合う存在なんだから」
りんごは笑みのまま答えた。
「いや……りんご。あれは全然協力している様には見えないんだが?」
程なくして、みかんが不思議そうな顔になってりんごへと声を掛けた。
自称・主人公は、ここに来てようやく言葉を発する事が出来た。
……まぁ、ここはリダ本編だから、そもそも主人公ですらないんだけどな?
素朴な事情はさて置き。
「良いのよ。あれもまたコミュニケーションの一つだしね? 互いに本音を言い合える仲とでも言えば良いのかしら? 少し前に見せたココナッツの様な、独りよがりで一辺倒な上に、思い上がった思考を元に威張り散らしているのであれば、話は全然違って来るけどね? 今の様に自分の気持ちをストレートにぶつけ合う態度なら大歓迎よ?……それに」
みかんの言葉に、りんごさんは声を返すと、間もなく柔和な笑みを色濃く作ってから、再び口を開いて答えた。
「私は、パインだけを贔屓するつもりはないわ? 今回はココナッツがちょっと調子に乗っていたから、その部分を正す為に懲らしめたけど……実際には平等に接するつもりよ? もちろん、ココナッツにだってアダムを愛する権利はあると思っている物」
「……ほうほう。つまりだ、りんご? お前はあの二人が無駄に一人の男を取り合う姿を見て『微笑ましい光景ね☆』とか言うつもりなんだな? みかんさん的に言うと、全然微笑ましくないぞ? むしろ、殺伐としているのだが?」
上機嫌のまま答えたりんごに、みかんは地味に渋い顔になって言う。
確かに間違った事を言ってはいないんだけど、ここは大目に見るべきではないのか?
様々な紆余曲折の末、漸くココナッツ様とパインの二人にあった心の隙間が埋まった。
これだけは間違いないのだから。




