パインとココナッツとお母様【2】
「……パイン、それは違うわ……」
すると、ココナッツ様はパインへとゆっくりと声を返した。
そこからニッコリと笑みのまま、再び口を動かして行く。
「まずは、あなたに謝らないと行けない。お母様は言ったわ?『パインと私は一緒だ』と。その事実を、私は大きく拒絶した。私はあなたの様な存在とは大きく掛け離れた女神だ……決して、破滅の女神であるパインと一緒であろう筈がない……そう思い込んでいた」
淡々と答えるココナッツ様は、そこまで言うと俯いた。
そして、ポツリと言う。
「……でも、違った」
ココナッツ様は、か細い声音を弱々しく吐き出した。
漸く、自分の非を認めた瞬間でもあった。
地味に長かった気がする。
思えば、最初から素直にココナッツ様が言えば良かったのだ。
ごめんなさい………と。
「結局……パインと私の差なんて……全くと言って良い程になかった。強しいて私があなたよりも勝った物は……運だったんじゃないのかな? 偶然あなたが『破滅の女神になってしまった』と言う事を除けば、私とあなたとの差なんて毛程もない……本当はね?」
俯き加減のまま答えたココナッツ様。
すると、パインが即座に声を荒げる形で否定して来た。
「そんな事ない! そんな事ないよ、ココナッツ! あなたは頑張った! 長い長い時間を掛けて……こんなに素晴らしい街を、国を作った! 偉業を成し遂げた!……その間、私はただ寝ていただけ……こんな私と、今の今まで頑張って来たココナッツを一緒になんて出来ないよ……だから、ココナッツは素直に自分を称えても良いと思う……私の様な出来損ないの野良女神なんかより、全然立派な女神だ……って、誇って良いと思う」
「ありがとう……パイン。だけど、やっぱり言わせて貰うわ? ごめんなさい……私の思い上がりから、あなたを散々苦しめて来た事は、どうしても謝るべきだと思う……恥ずかしい事に、お母様から怒られて初めて気付く愚かな私だけど……出来れば許してくれたら……嬉しいな」
「許すも許さないもないよ、ココナッツ! 私の視点からすれば、ココナッツは頑張ったもの! 逆に私はただ寝てただけで、ぐーたらな女神としか、他に言えないもの!」
素直に謝罪の念を顔に浮かべて答えたココナッツの手を取り、パインは元気に叫んだ。
………うむ。
良い物を見せて貰った!
結局の所、二人の中に生まれた不破を取り払う中軸となっていたのは、ココナッツ様であった。
本当になぁ……この人に、もう少し柔軟な思考があったのなら、ここまで苦労する必要も無かったろうに。
しかしながら、こうして二人の不破が解消された姿を見る事が出来たのは、私なりに嬉しくもある。
見れば、りんごさんもニコニコしていた。
母親として、喧嘩している二人の娘達をしっかりと仲直りさせる事が出来て、非常に満足そうだ。
その近くにいたみかんが『だから、なんでみかんの出番ないのです? てか、リダ本編にも出れてないじゃないですか! メチャクチャ不本意なのです! 異議ありなのですよぉぉっっ!』とかって、不明瞭な台詞を悲痛に叫びながら四つん這いになって項垂れていたけど……見なかった事にした。
どちらにせよ、万事これで解決だな?
私も肩の荷が降りたと言う物だ!
「じゃあ、アダムと私が付き合う事になっても、許してくれるかな?」
……と、思った辺りで、ココナッツ様が地味に変な事を言い出し始めた。
ニパッ! っと、愛らしい笑みを作って言うのだが……この言葉がココナッツ様の口から発せられた辺りから、妙に不穏な空気が……?
自分に対して治療魔法リカバリィを発動させ、身体の怪我を回復するココナッツ様がいたのは、ここから数秒後の事だった。
「……え?」
パインはポカンとなる。
ハッキリ言って、ココナッツ様の発言は想定外過ぎた模様だ。
余りにも意味不明過ぎて、唖然となってしまった。
そして、治療魔法を発動させ、自力で復活を果たしたココナッツ様が、次に起こした行動も……だ。
「私は完全に悟ったよ! ミナトさんは、アダムだと言う事に……ミナトさんが母様に殺されたと思った時……私の中で、何かが弾けたよ……そして、気付いたんだ。ああ、これは昔……アダムが自殺した時に感じた衝動と一緒だ……ってね?」
答えたココナッツは『シュンッッ!』っと、風を切る勢いでミナトの背後に回ると、そのままギュッ! っと、ミナトを抱きしめた。
「……っ⁉︎」
ミナトはポッカーンってなる。
予期せぬ急展開に、頭が追いついてないと言わんばかりの顔になっていた。
そして、然りげなぁ〜くりんごさんの事を『あくま』と描写していた。
同時にりんごさんの額に怒りマークが生まれていたけど……私は何も見ませんでした!




