パインとココナッツとお母様【1】
事態は、無駄に緊迫していた!
いや、これ……どう軽く考えても大惨事確定だろ⁉︎
そもそも、私が立っている所だってハチャメチャに危険と言えた。
超巨大なダイダラウェーヴがあるのは、私の視点からすると前方に位置している為、波が押し寄せるのはその先に立っているパインとミナト……そして、起き上がったまま倒れているココナッツ様と言う様に見える。
けれど、ザッパァァァァァンッッッ! っと波が落ちて来たら?……これ、絶対に四方八方に散らばるよな?
そうしたら、矢面に立つパインやミナトのみならず、その真逆に居る私達も危険極まりない訳で……。
ヤバイ! マジで洒落になってない!
思った私はソッコーで上空に逃げる準備をしていた。
もちろん、アリンと非難する為、しっかりと抱っこしている。
二人揃って退避の準備は万全だ!
え? ユニクス? そんな変態は知らないな!
「……やれやれ。変な所で見せ付けてくれるわね?……はぁ」
予想以上に勇敢な態度を見せて来たミナトと……その姿を見て、瞳に涙を浮かべていたパインの二人がいた所で、りんごが妙に興醒めしたかの様な口調になって嘆息する。
その直後、発動途中だった超絶水流魔法をキャンセルした。
同時に、これまであった大津波みたいな水が……まるで嘘の様に消滅して行く。
……正直、ホッとした。
「ここでアンタ達ごと、水流に飲み込んでやっても良かったんだけど……そんな事をしたら、今度こそ本気でパインやココナッツに毛嫌いされちゃうだろうしね……悪役にはなりたくないのよ? 私も」
答えたりんごさんは、言ってから肩を竦ませてみせた。
そりゃ……まぁ、恨まれるとは思うよ。
「……はは、そうですねよね……はは」
少し間を置いてから、ミナトが苦笑混じりにりんごさんへと返答していた。
至って真っ当な台詞を口にしていたミナトは、終始苦笑い。
恐怖心が全くなかった訳じゃないだろうからなぁ……結局は、苦笑しか出来なかったのかも知れない。
「ココナッツ!……大丈夫っ⁉︎」
他方のパインは、すぐ真後ろ辺りに倒れていたココナッツ様の元へと向かう。
心配そうな顔をしているパインではあるのだが……その反面で、やや身構える雰囲気も見受けられる。
破滅の女神と化してしまったココナッツ様は、自我を完全に失っていたからだ。
……が、しかし。
「……あ、あぁ……アダム……アダムがいる……生きてた……生きてたんだ……」
その怒りも徐々に収まり、今では自我を取り戻しつつあった。
……うむ、なるほど?
私が知る限りだと、破滅の女神になってから移行は、様々な負の感情を封印されるまで、自我を回復させる事が出来なかった筈だ。
ここの詳細までは知らないと言うか、特に気にしてなかった為、細かい部分までは分からないのだが……少なからず、自力で自我を回復させる事が可能であるとは思えなかった。
しかし、どうだろう?
ミナトの顔を見た直後……血走っていた瞳が徐々に正常な者の瞳へと大きく変化して行き……同時に、ちゃんと言葉を発せられる精神状態へと急速に回復して行ったではないか!
これは……奇跡と言うべきか?
いや、ともすれば過去にパインが破滅の女神になってしまった時も、同じ結果になっていたかも知れない。
ミナトが生きていた。
ここが、ココナッツ様にとって一番の精神安定剤となったに違いない。
過去では既にアダムが死亡してしまい……生き返る事なく三千世界へと旅立ってしまった為、パインの怒りを鎮める存在がそもそも無かったのではないのだろうか?
過去の時代でも、奇跡的にアダムが助かっていたのであれば、パインも負の感情を封印させ、強引に破滅の女神状態を解除させなくても良かったのではないかと思うんだ。
……実際の所は分からないけど、これで間違っていないだろう。
それだけ、二人の女神は……パインとココナッツ様の二人は、かつてのアダムを……そして、現代に転生したミナトと言う少年を、心底愛していたのだから。
「ココナッツ! あなた、ちゃんと会話が出来るの? 凄い! 私は、会話が出来る様になったのは、お母さんが色々と私の感情を封印してからだった! やっぱりココナッツは私と違って、優秀な女神だね!」
穏やかな瞳へと変化して行くココナッツの姿を見て、パインは無条件で褒め称えた。
事実、パインの視点からすればそうなるのだろう。
素直にココナッツ様を讃える姿は、驚き半分感動半分と言った所だろうか?
私からすれば、仮にパインであったとしても、同じ結果になっていたと思うんだがなぁ……?




