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二人の女神と母と勇者様【27】

 私的に言うのなら、直撃を受けなくとも……その余波だけで百回は死ねる威力だ!


 百歩譲ってパインはギリギリ助かるかも知れないが、


「……って! オイッ! 俺はただの人間だぞっ⁉︎ お前とは身体の構造からしてデリケートに出来てんだぞっ! マジで死ぬからっ⁉︎」


 今にも泣き出しそう……と言うか、普通に滝の様な涙を流して喚き声を出していたミナトは、間違いなく御臨終クラスだ!


 一体、パインは何を考えているって言うんだっ⁉︎


「うるさいですね! さっきも言ったでしょう? 死ぬ時は一緒です!……と!」


 普通にミナトと心中する気だった⁉︎

 いや、アホなのか? アンタ!

 取り敢えず、私じゃなくて良かったけど!


 どう贔屓目に見ても理不尽を押し付けている様にしか見えないパイン。

 本当、こんなのが知り合いじゃなくて良かったよ……あたしゃ。


「……どきなさい、パイン。これはココナッツへのお灸なのよ? あなたは受ける必要など無い物なんだから」


 程なくして、超絶魔法を一旦停止にしていたりんごさんは、神妙な顔付きのままパインへと声を向ける。


 果たして、パインは頑なに首を横に振りながら口を開き、


「いやです! ココナッツは確かに私を悪く言いました! そして、破滅の女神である私を酷く糾弾もしました!……あれ? それなら、お仕置きされても良いかも知れない?」


 語っている途中で、自分の言った言葉により、珍妙な納得の仕方をしていた。

 取り敢えずアホな女神だと言う事実だけは、誰の目から見ても明らかであった。


「……いや、違います! そうではないのです、お母様! ココナッツと私は同じです! ここで、ココナッツを見捨てたのであれば、私を糾弾したココナッツと私は同じ事をしたも同然だと思うんです!」


 しばらく考えたパインは……そこから、一念発起する形で再びりんごへと叫んでみせた。


 途中『……いや、それってパインの事情だろ? 俺、全く関係ないよね?』とかって感じの台詞を、パインの真横で言っているミナトの姿があったんだけど、軽やかにスルーされていた。


 ミナトよ……強く生きろ!


「……へぇ。そう? じゃあ、あなたも一緒に、私が作った水流の中に飲み込まれる……これで良いのかしら?」


 りんごさんは、好戦的な笑みのままパインに答えた。


「……うぅ……本当はそれでも嫌です……凄く怖いですし……苦しそうです……でも、だけど、大丈夫! ミナトさんがいるから!」


「それはどんな理屈だよ!」


 覇気のある声音で、胸を張って断言するパインに、ミナトがソッコーでツッコミを入れたのは、言うまでもなかった。


 しかし、御無体なシチュエーションに大きなストレスを剥き出し状態で顔にアリアリとみせていたミナトは……間も無く気付いた。


 パインの手が大きく震えていると言う事に。


 ……本当は、恐怖と不安で一杯になっていると言う事実に。


「………」


 ミナトは無言になる。


 ……うむ。


 やっぱりミナトと言う少年は出来た男だな?

 普通、本当に死ぬかも知れない級の、絶望的なシチュエーションが発生したら、パインの事なんて歯牙にも掛けない物だぞ。

 自分の事だけで精一杯になり……パニックを起こして、周りの事なんか目にも止まらなくなる物だ。


 しかしながら、こんな死と隣り合わせの極限状態においても尚……ミナトはしっかりとパインの心情を……その姿に気付いたのだ。


「……ったく」


 ミナトはつまらない顔になって、小さく舌打ちする。


 本当は本意ではない部分もあるのだろう。

 少なからず、顔ではそう言っている。


 けれど、それでも……尚、ミナトは空威張りにも似たハッタリをかます形で口を開いてみせた。


「おい、パインのお母様とやら! アンタはもう十分にお仕置きをしただろ? そろそろお開きにしないか? きっと、ココナッツさんも十分反省したと思うしさ!」


 顔を一気に引き締め、真剣な顔になったミナトは、パインの前にズイッ! っと出る形を取ってから、眼前で超絶水流魔法を発動しているりんごさんへと叫んだのだ。


 場合によっては藪蛇になる危険性だってあると言うのに、だ?


 そして、藪蛇へと転じてしまった場合、確実に自分の命はない。


 しかし、それでもパインの為に威勢良く叫んでいた。


 ……肝の据わった少年だ。

 ちょっと無謀なのは若気の至りと言う所だろうか?

 しかしながら、こういうバカな部分は冒険者向けと言える。

 

 本当に面白い男だよ。

 裏が出るか表が出るか分からない賭けに出るなんて、さ?


 それが、結果として英断になるか、蛮勇になるかは……まぁ、私にも分からないのだが。

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