二人の女神と母と勇者様【25】
墜落……と言うか、地面に激突した場所まで向かい、巨大クレーターの中心部に埋没してしまったユニクスを掘り起こそうとする私がいた直後……ココナッツ様の追撃がやって来る。
本気で殺しに掛かって来てるな……これ。
内心で毒吐きつつ……今度は私も参戦してやろうと考えていた……直後、りんごさんが私の眼前にやって来た。
……っ!
ちょっと目を疑った。
今の私は、スキルもバフも発動してしない状態ではあったから……と言うのもあったろうけど……りんごさんの動きが全く見えなかったのだ。
もちろん、瞬間移動したから……とか言うオチではない……と思う。
地味に曖昧だったのは、りんごさんが魔法を使ったかどうかも良く分からなかったからだ。
それだけ動きが俊逸だった。
更に驚かされたのは、この後と言える。
私の前に突如として姿を表したりんごさんは、
とんっ!
右手の人差し指でココナッツ様の額を叩いて見せる。
要はデコピンだった。
その瞬間、
ドンッッッ!
人差し指の攻撃とは到底思えない程の威力でココナッツ様を盛大に吹き飛ばしていた!
「ゴガァァァッッッ!」
理性を失っていた為、獣染みた叫びであったが、語気から察するに悲鳴の一種をあげていたココナッツ様。
更に吹き飛んだココナッツ様の『背後に現れた』りんごさん。
これも、動きが全く見えなかった。
瞬間移動なのか?……いや、どっちだ?
ドコォォォッッ!
超スピードで背後に回っていたりんごさんは、強烈な蹴りをココナッツ様へとお見舞いしていた!
更にりんごさんの攻撃は続く!
蹴りを受けた事で、再び大空高く舞い上がる羽目となったココナッツ様の『頭上に』りんごさんは飛んでいた!
だから……もう、これ瞬間移動だよねっ⁉︎
何なの? ねぇ? おかしいよな? 物理法則的に!
ズドンッッッ!
頭上へと先回りしていたりんごさんは、結果的に待ち受ける形で下から飛んで来るココナッツ様の顔面を足で薙ぎ払って見せた。
その瞬間、今度は地上へと瞬間的に落ちて行く。
ドォォォォォォンッッッ!
地上へと落ちたココナッツ様は、あたかも隕石でも落下したんじゃ? と言いたくなる様な勢いで地面に激突すると……巨大クレーターを作り出しては、地中の奥深くまでめり込んで行った。
……ヤバイな。
分かってはいたけど、予想を遥かに上回る実力だ。
他方、ココナッツ様の実力も、私が予想していた以上の代物であった。
ボンッッッ!
クレーターが出来たかどうかを目で確認する事が出来た程度の時間で、素早く穴の中から飛び上がって来ては、
「ゴァァァァッッッ!」
怒涛のラッシュを向けて来る!
力任せながら、その動きはまさに『怒涛』と表現するに値した。
腕が何本もあるかの様な残像を見せるラッシュは、私もちょっと息を呑んだ。
油断してたら、間違いなくやられるな……これは。
だが、それ以上に圧巻の動きを見せていたのが、りんごさんであった。
時間にして百二十分の一秒……あるいはそれ以下の短時間で、当たれば16tトラックすら吹き飛ぶ程の威力がある鉄拳を連続で放って来るココナッツ様の拳を、ヒョイヒョイって避けるりんごさん。
ほんの一瞬でも避ける動きが遅ければ当たるし、避ける位置を間違えれば同じく当たってしまうと言うのに……でも、掠りもしない!
果ては、太々しい笑みまで浮かべている始末!
どんだけだ、アンタはっ⁉︎
「さぁ〜て? どんなお仕置きが良いかしら? やっぱりここは、定番の『お尻ペンペン』が良いかしら?」
答えたりんごさんは、軽く頭を捻る様な仕草をしていた。
もちろん、ココナッツ様のラッシュを避けながら……だ。
もはや、実力の差は歴然である。
倒す気になれば、数秒を必要としなかったのではないだろうか?
「……マジか、参ったな」
私は乾いた笑いを見せながらも呟いた。
別に、自分が最強だと思っていた訳じゃない。
そうじゃないけど……私も大概と形容しても過言ではない程度の能力を手に入れていたからな。
正直、これ以上強くなってどうするんだ?……と、心の奥底辺りで思い始めていた頃だった。
尤も、今の私には強くならなければ行けない理由がちゃんと存在している。
この世界の根幹を揺るがす、あの最低最悪な道化師をぶん殴ると言う目標がある為だ。
それだけに、まだまだ精進しなければならないと思う部分は今でも存在しているし、今後も強くなる為の努力を怠る事はないだろう。
けれど、それとは別に……飽くまでも恣意的な情念から、新たな目的が生まれた。
りんごさん……アンタの実力はマジで本物だよ。
そして、私はまだまだ満足しては行けない……って事もな?




