二人の女神と母と勇者様【23】
「おいおい、パインさんよ……お前も、あんな魔王みたいな存在になるって言うのか? 冗談は顔だけにしてくれよな?」
ミナトはカラカラ笑いながら、冗談半分にパインへと口を開く。
なるほど、そう考えたのか。
確かに『もう一人の私』と表現したのだから、ミナトがそう答えてもおかしくはない。
けれど、ミナトの態度から察するのなら、そこには冗談半分の語気が込められていた。
この言葉に、パインは素早く怒っては、怒鳴り声をまき散らして来るんだろう……と、その時のミナトは考えていたんじゃないのか? 少なからず、私には相手を少し揶揄う感じの口調に見えた。
しかしながら、冷やかし加減の態度で答えたミナトへと見せたパインの態度は、彼の予想を大きく裏切る結末を辿って行くのだった。
「冗談であれば良かった……私だって、笑って『そんな訳ないですよね〜!』って言えたら……良かったのです。本当に……そうであれば、どれだけ心が軽くなるか……」
答えたパインは、悲痛に顔を歪め……最終的には鳴き声になってミナトへと声を吐き出していた。
………。
実際、そうなんだろう。
なんとも切ない。
パインとしても、笑って一蹴する事が出来たら、どんなに気持ちが楽だったのか?
けれど、そんな事は出来ない。
もう……現実から目を背ける事など、出来ないのだから。
「パインさんには分かるんです……ココナッツだって、好きであんな姿になった訳じゃないと」
パインは瞳から、ポロポロと涙を溢して言う。
「そして、パインさんは怖いんです……自分の中にもココナッツと同じ……破滅の女神としての力が眠っていて……いつか、爆発しちゃうんじゃないか……と」
再度声を吐き出したパインは、カタカタと身体を震わせた。
破滅の女神としての力は、言うなれば核弾頭にすら匹敵する。
何かの拍子で、そんな物が暴発してしまったのなら……当然、周囲に居る者の命などなく、その肉体は秒を必要とする事なく灰塵に帰すだろう。
もちろん、そんな事をパインは望んでいない。
パインは、みんなと楽しく過ごしたい。
安寧とした穏やかな環境の中、笑顔の絶えない世界で一緒に共通の時間を過ごして行きたい。
……けれど、心に核弾頭を積んでいる様な存在が……いつ、周囲の人間に傷を付けてしまうか分からない自分が、果たして共存の道を歩んでも良い物なのか?
パインの中にある葛藤は、際限なく己の中で繰り返されていたんだろう。
……何とも可哀想な話しと言えた。
可能であれは、私もパインの助けになる様な事をしてあげたいよ。
……けどさ? 私は思ったよ。
パインにはもう、頼りになる相手が既にいたんだ……ってさ?
「……っ⁉︎」
パインの瞳が大きく見開かれた。
理由は簡素な物だ。
ミナトが、パインを優しく抱きしめたからだ。
……ったく、見せ付けてくれるねぇ。
この場には、私達はもちろん、りんごやみかん……それに、ういういさんやいよかんさんまで居るって言うのに。
まぁ、ういういさんといよかんさんは、完全なる背景と化しているから、地味に分かり難い存在になっていたりもするんだけど。
……まぁ、そこはともかく。
「ミ、ミミ、ミナトしゃんっっ⁉︎」
突発的に抱きしめられた事で、パインは顔を真っ赤にさせていた。
意図せずして抱きしめられた事で、顔を瞬間沸騰湯沸かし器状態で真っ赤な顔から湯気を漏らしていた。
……いきなり二人の世界へと没入するのは、リア充の悪いクセだと思うぞ……ったく。
「怖くなんかねぇよ……お前が破滅の女神だかになった時は……俺が責任持ってお前を止めてやる」
パインを優しく抱きしめながら、ミナトは答えた。
穏やかな笑みを柔和に作って。
ヤバイな?
ミナトとか言う少年は、ナチュラルに良い男してるじゃないか。
男としての包容力と言うのだろうか?
そう言う、頼もしさと優しさを絶妙なバランスを保った状態で口に出来るのは、私的にポイント高いと思えてならない。
でもリア充行為は、二人だけの時にしてくれないかな?
「ミナトさん……うぅ……ふぅうぇ……」
パインはミナトの胸元で泣き出した。
そこから、素直に甘える形でミナトの胸に自分の顔を埋めると、
「ミナトさんなら、そう言ってくれると……その……ちょっとだけ……うん、本当にちょっとだけだけど……思ってました」
地味に素直じゃない台詞を口にしていた。
ここは、普通に『そう言ってくれると信じていました!』で、良い話しだと思うんだけどなぁ……?
もう、顔と良い、態度と良い、素直にミナトへと甘えていると言うのに……けれど、何処か素直になれない台詞を口にするパインがいた。
そして、私の口から言える事は一つしかなかった。
リア充ども……爆発してくれない?




