二人の女神と母と勇者様【22】
……りんごさんはパインの母親だしな。
結局は大人の態度と言うか、少し割り切った台詞を自然と口にしてしまうのかも知れない。
だって、私もアリンに対して同じ様な事をするもの。
「お母さん! それは、絶対にそう思ってない人間が取る態度ですよ! ここは、もっと! ちゃんと! しっかりと! パインの言葉へと真摯な対応をするのが、最低限の礼儀だと思うのです! 今すぐやり直しましょう!」
他方のパインが見せる態度は、まんま私の愛娘(三歳児)と一緒だぞ。
確かにりんごとパインは母娘の関係ではあるんだけど、年齢的に見てどうかと思う。
だって、頬をぷくぅ〜っと膨らませながら、顔を真っ赤にして抗議しているんだもの。
地味に子供っぽくがなり立てて来るパインの姿を見て、りんごさんは地味に呆れた。
……と言うか、ちょっとうんざりしていた。
思わずうんざりしてしまった理由は、間もなくりんごさん本人の口からやって来る。
「……なんて言うか、あなた……腐れキノコに似てるわね……はぁ、おかしいわ? 何処で育て方を間違えてしまったのか……?」
嘆息混じりに両腕を組みながらもぼやきを吐き出していた。
言われると、確かに少し似ているかも知れない。
なんと言うか、自分が分かっていないと言うか……傍目からすればボケで言っている様に感じてしまう様な内容でも、実は真剣に言っていたりとか……まぁ、そう言う所が、だ。
「およ? みかんさんに似ているです?……いや、みかんさんは『腐れキノコ』ではないから、違ったね〜? あはは〜!」
りんごさんの話を耳にしたみかんが、陽気な笑みのまま声を出していた。
うん、やっぱり似ているかもな?
「アンタの他に腐れキノコが居たら、世も末じゃないの……」
りんごさんは苦々しい顔になって、みかんに対してぼやきを口にすると、
「そうですか、なるほど。つまり、私はお母さんよりも腐れキノコさんに似ていると言う事ですね?……いや、待ってお母さん? 腐れてる人と私が似ていると言うのはおかしいですよ? だって私、腐れてませんもの!」
パインが、更にりんごさんの吐息を誘う様な台詞を、真面目な顔になって口にしていた。
お陰で、りんごのテンションは更に下がってしまう。
「……そう言う所が似ていると言うのよ……ともかく、あなたが腐れキノコと似ていても構わないし……その腐れた性質を矯正なさいとも言わないわよ……心情的には直して欲しいけどね」
りんごさんはビミョーな顔になりつつもパインへと答えた後、真剣な顔になってから再び口を開いた。
そうだな……うん、何となく分かるよ。
私も、アリンの性格がみかんみたいになったのなら、必死でその性格を直しなさい! って叫ぶに決まっているのだから。
「それより、パイン? ここに『アダムと一緒に来ている』と言う事は、ちゃんと謝る事が出来たのね?」
程なくして、りんごさんはパインへと尋ねてみせる。
地味に気疲れしそうな話題から脱却したくて、話しのベクトルを変えに来たのかも知れないが、
「もちろんですお母さん! 私は素直な良い子なので!」
しれっと天然チックな台詞をしれっとほざいて来たので、りんごさんの眉は大きく捩れていた。
……どう転んでも、りんごさんの精神が削られる話題になってしまう模様であった。
その一方で、
「なんだよ、これは……」
ミナトが唖然茫然となって、ユニクスとココナッツ様との戦いを見据えていた。
……まぁ、そうなるよな?
私的に言うのなら、二人の攻防が『見えている』だけで、ミナトは凄いと思えた。
ハッキリ言って、現状のユニクスとココナッツ様の動きは、一般人からすれば常軌を逸する。
動体視力が極めて高い人間でもない限りは、その姿を捉える事すらままならないだろう。
つまるに、まだ見えている時点でマシなのだ。
ふぅむ。
やっぱりミナトは全くの素人と言う訳ではなさそうだ。
冒険者として仕事をしていても、いなくても、何らかの戦闘的な訓練を受けているのではないのだろうか?
どちらにせよ、ユニクスとココナッツ様の戦闘を見ていたミナトは、呆然とした面持ちのまま口を動かしていた。
「……世の中って、広いな……」
そうと、誰に言う訳でもなく独りごちるミナトがいた頃、
「……ココナッツは……もう一人の私です」
パインがミナトへと呟く。
「……え?」
ミナトは大きく眉を捩った。
どうにも言っている意味が分からない……そんな顔をしていた。




