二人の女神と母と勇者様【18】
……しかしながら、これは余り良い展開ではない。
案の定、りんごさんの実力は別格級だ!
元来なら、世界を恐怖のドン底に落とし兼ねない破滅の女神を相手に、太々しい笑みを高飛車に作りながら、座興を楽しむかの様に戯れている。
……そう。
これはりんごさんなりの『戯れ』だ。
かつての話しを聞く限りでは、かなりの苦戦を強いられた……とか言う話しではあったんだが、現状のりんごさんを見る限り、余裕綽々としか他に形容する事が出来ない。
ここから察するに、5000年近い年月を経て、りんごさんも自分なりにトレーニングを積む事で、大きくパワー・アップしていたのではないのだろうか?
実際の所は定かではないが……ともかく、今ある事実は見紛う事なく、りんごさんが圧倒している。
これらを加味するに、今のりんごさんならば、いつでもココナッツ様を葬り去るだけの能力がある……と言う結論に達してしまうだろう。
これは行けない!
「よし、ここが正念場だ! 頑張れ! ユニクス!」
「はい、分かりました! 頑張りま………って、リダ様? もしかして戦うのは私だけですか? いやいや、それはおかしくないですか? だって、リダ様もドーンテン一族だかなんだかで、この一件に深く携わっているんじゃないのですかっ⁉︎」
「その事は忘れろ!」
「忘れられる訳がありませんよ、リダ様! あなた様と一緒に過ごしたこの数日間をどうやって忘れろと⁉︎ そんな薄情な私であると思っているのですかっ⁉︎」
「えぇい、やかましい! しれっと気持ち悪い事を吐かすんじゃない!」
「しれっと真剣な顔して責任転嫁してるリダ様に言われたくありませんよっ!」
私とユニクスによる、言葉の鍔迫り合いは、残念ながら平行線を辿るばかりであった。
ぐむぅ……これは不味いな。
「分かったユニクス! ここは先ず、お前が先陣を切ると言う形を取る事にしよう! つまり、一番手と言う意味だ」
「……結局私が、一人で戦うんじゃないですか」
「いや、それは違うぞ、ユニクス? もし仮に……そう、仮にだ? 万が一にも大きな危機を招いてしまったとする。そうしたら、後釜が必要になるだろう? つまり、そう言う事だ」
「………」
私の言葉に、ユニクスは無言だ。
何やら、自分なりにアレコレと考えている。
しばらくして『二ヘラ〜ッ!』っと笑った。
通常運転で気落ち悪い女であった。
「分かりました! 不肖、このユニクス! リダ様の右腕として、華々しく散って来ます!」
いや、散ったらダメだからな?
「……お前、本当に分かってるのか?」
私は怪訝な表情になってユニクスへと尋ねると、
「もちろんですよリダ様! この世界に到来するだろう燦然たる明るい家族計画の為! 私が大志を胸に、この身を捧げる意義を……今、ここに熱く見出す事が出来たのです! ああ、なんたる幸せ……まさに感無量!」
訳の分からない寝言をほざいて来た。
取り敢えず、頓珍漢な勘違いをしている様子ではあるのだが、
「……行ってくれるな? ユニクス!」
「はい! もちろんですとも!」
瞳をキラキラ輝かせて、私の言葉を快く承諾してくれている模様なので…………ま、良いか!
私的に言うと、イシュタル様の面目もある。
一応、ユニクスは女神・イシュタルの使徒としてやって来た勇者なのだからして……単純に飲み食いした挙句、観光三昧のままトウキへと帰る様な真似だけはどうしても回避したい。
少なからず、ここでユニクスがココナッツ様と戦えば『一応、こちらも努力したのですよ?』と言う反論が出来る。
よって、これで良いのだ!
決して、ただ遊び呆けていた事がバレて、イシュタル様から陰険な天罰が下るかも知れない……とかって、地味に恐怖していた訳ではない!
実はちょっと思ってたけど!
「よし、行け! ユニクス! 勇者として、イシュタル様から貰った力を存分に発揮して来るのだっ!」
いつになく神妙な顔付きになって答えた私がいた頃、
「リダ様の仰せのままに!」
ユニクスもまた、俄然乗り気な顔をして深く頷くと、
シュバッッッッッ!
瞬時に動いていた。
風を切るとは、まさにこの事だ。
軽快を通りこして、風と同化したんじゃないか? と言いたくなるまでのスピードで動いたユニクスは、瞬く間にりんごさんとココナッツ様の間に入り込むと、
ドンッッッ!
りんごさんに放っていたココナッツ様の鉄拳を、両手でガードして見せた。
「……あら?」
りんごさんはキョトンとなった。
きっと、ユニクスがやって来たのは、りんごさんも想定外であったのだろう。
まぁ……そこは、大目に見てやってはくれませんかねぇ?
こっちも、ちょっと事情があるんで。




