二人の女神と母と勇者様【17】
終始にこやかな笑みを作り、りんごさんはパインの元から離れると、滑空魔法を発動してからココナッツ様が飛んで行った方角へと向かって行く。
……と言う所で、
「りんごが女神の方に飛んで行ったです! みかん本編では出番無さそうだから、せめてリダ本編に出張るです!」
みかんがいきなり『くわわっ!』っと、私に言って来た。
相変わらず身も蓋もない……。
そして、自分の本編では出番がないから……とか言う理由で、リダ本編に来るんじゃないよ!
私が軽く迷惑しているのだがっ⁉︎
相も変わらず奇抜な性質を見せるみかんはさて置いて。
「私達も行くか」
「分かりました! 諸手を振って、リダ様を見送り……ません! ませんから! だから、右手! その右手はやめて下さい!」
真剣な顔になって答えた私に、ユニクスもまた『キリッ!』っと真顔になってふざけた台詞を臆面もなくほざいて来たので右手を向けた。
……フンッ!
爆破されなかっただけ、まだマシだと思って欲しい所だ。
「アリンも行くおっ! ココナッツしゃまが危険なんだお! あの方は素晴らしい方なんだお! アリンに、たくしゃんのお人形を買ってくれるんだお!」
お前の中にある良い人の着眼点はソコなのか?
程なくして、鼻息を荒くして答えるアリンに、私は物凄ぉ〜く疲れた目を作ってしまった。
もう、アリンの欲望を抑える事は無理なのかも知れない。
あたしゃ……本気でアンタの育て方を間違えてしまったと、本気で苦悩している所だよ……。
三歳にして、ここまで貪欲かつ物欲に忠実な子になってしまうとは思わなかった。
もう少しストイックに生きる方法をアリンに教え込まないと、絶対にダメな大人になるな。
今後はもっとアリンの育成に情熱を注ぐ事にしようと心に誓った私は、りんごさんが飛んで行ったろう場所に向かって飛び立って行く。
直後、アリンとユニクスの二人も滑空魔法を発動し、私の後を追う形で飛んで来た。
序でに、みかん達までついて来たな?
別に構わないと言うか……みかん・パーティの面々は、揃いも揃って反則的な実力者ばかりなので、居てくれた方が助かりはするんだけど……話しをややこしくする連中でもあるから、素直に喜べないと言うのが私なりの本音だ。
取り敢えず、変に話しをゴチャゴチャにしてくれそうな予感はしたのだが……みかんの出した魔法の絨毯に乗り、いよかんさんとういういさんの二人を引き連れたみかん達三人は、滑空魔法によって超速飛行して行く私達にピッタリくっ付く形で追って来るのだった。
りんごさんとココナッツ様の二人の元へとやって来たのは、そこから数十秒後の事だ。
距離的には結構あったとは思うのだが……いかんせん、滑空魔法を発動させていたからな?
私はもちろん、勇者の力を得たユニクスや、元・邪神でもあるアリンの持つ魔力は桁違いであっただけに、アッサリ音速近い速度にまで到達していた。
本当は超音速にだって加速する事が可能ではあったのだが、今回はそこまで加速する必要も距離もない。
精々20キロと言った所だろうか?
どちらにせよ、デコピン一発で20キロ以上飛ばしていたのだから……りんごさんの力はもはや人間じゃないな。
それ以前の問題か……思えば、数十キロ吹き飛ぶ様な衝撃を貰っていたら、吹き飛ぶ前に身体が粉々に砕け散っているだろう。
そう考えると、ココナッツ様の頑丈さ加減にも驚きを禁じ得ない。
やっぱり、人間の物差しでアレコレ考えては行けないと言う事なのだろう。
……ま、私も普通に吹き飛ぶけどな!
あの程度の威力で、身体が粉砕されてしまう程、ヤワな身体ではないのさ!
やべ、私も人間を少し捨てて来たかもだ!
………。
そ、そこはさておき!
キータの中心市街地から大きく外れ、平原地帯が広がっているエリアにて、
「ウガァァァッッッ!」
目を血走らせながらもりんごさんへと殴り掛かろうとするココナッツ様と、
「あはははははっ! それは新しいお遊戯かしら? それとも、ダンスの一種? それがダンスであるのならダンサー失格ね? もっと優雅に踊りなさい?」
陽気に笑いながらも、冗談を言っている風にしか聞き取れない憎まれ口を軽やかに叩くりんごさんの姿があった。
徐ろに減らず口を叩いている様にしか見えないが、ココナッツ様の鉄拳を、ひょ〜いひょいと躱していたその姿は、ナチュラルに異常だった。
身のこなしが軽やか過ぎるだろ? りんごさんよ……?
もはや、変人染みた動きに、驚きを通り越し……ちょっとした呆れの様な物を抱く私がいた。




