二人の女神と母と勇者様【16】
「……そう? まだ少し怪しいけれど……まぁ、良いわ? あんまりゆっくりしていると、ココナッツがこっちにスッ飛んで来るでしょうしね?」
どう考えても、パインがりんごさんを本気で怖がっている様にしか見えない状況ではあったのだが……りんごさんは、やや妥協する形でパインへと声を返した。
まぁ、実際に破滅の女神と化したココナッツ様は、りんごさんがここに居る以上、文字通りすっ飛んで来るに違いない。
かなり遠方の方に飛ばされたのは、ココナッツ様の強烈なエナジーを辿って行くだけで直ぐ分かる。
猛烈かつ凶悪なエナジーだっただけに、かなり遠くである筈だと言うのに、あたかも間近に居るんじゃないのか? と真面目に思えてしまう。
逆に言うと、エナジー的なダメージは皆無にも等しいから、早々遠くない内にこちらへとやって来る事は確実であろう。
つまり、りんごさんが妥協半分で答えた台詞に間違いはなかった。
さて……ここからどうなる物やら。
見る限り、りんごさんが居れば、それだけで全てが終わってしまう様な気もする……するんだけど。
仮にりんごさんが全てを解決してしまったのなら、私達の存在意義が絶無となってしまう。
いや、まぁ……それはそれは構わないと言えば構わないんだけどさ?
それでも思うんだよ?
散々飲み食いして、キータ観光までしてさ?
実際にやった事は、単なるエキストラ同然のモブキャラを演じていただけ。
これでは、流石に締まらないのではないのか?
少なからず、勇者・ユニクス的にはちょっと頂けないだろう。
うむ! ここは、後で私が一肌脱ぐ必要があるだろう!
勇者・ユニクスの名誉の為に!
……と、私の中で妙案が浮かんでいた頃、りんごさんはパインへと右手を向ける。
すると、
ポゥゥゥ……。
りんごさんの右手から、淡い光が生まれる。
生まれた淡い光は、りんごの右手から離れてパインの中に入って行った。
「これで、よしね? あなたに上げる、私のご褒美がこれよ? 気に入ってくれると嬉しいわね?」
右手から生まれた淡い光がパインの中に入って行ったのを確認したりんごさんは、柔和な笑みをゆったりと浮かべながらも口を動かした。
……?
何をしたんだろうな?
傍目で見ている分には、何をしていたのか良く分からない光景であった。
「………これが、ご褒美……?」
りんごさんの言葉に、パインは朧気な口調で声を返す。
最初は、与えられたパイン本人にも、良く分からない代物であった様子だが、
「……なるほど」
そこから暫くし、パインは誰に言う訳でもなく独りごちる様に頷いた。
そこから、ミナトの方へと視線を向ける。
パインの顔が『かぁぁぁぁぁっっ!』っと赤面したのは、そこから数秒後の事だった。
……うむ、なるほどな?
つまり、今のパインが見せた態度こそが答えであり、りんごさんパインへと与えたご褒美であったのだろう。
私の知る限りでは、かつて破滅の女神となってしまったパインは、ありとあらゆる負の感情を封印させられていた。
そして、負の感情ではなかった物の……破滅の女神となってしまった大きな要因となった感情、恋愛感情もまた同様に封印していたのだ。
恋愛感情が完全に封印されていたパインが、ミナトの顔を見てソッコー赤面する筈がない。
つまり、そう言う事だ。
「面倒臭いご褒美ですね? お母様?」
パインはちょっとだけ眉を寄せてりんごさんへと口を開く。
「……そう? その割には、良い顔をしていると思うわ?」
りんごさんは、ちょっと冗談めいた態度で戯おどけた。
実際、私もりんごさんの言葉に賛同出来る。
今のパインはとっても良い顔をしていると思うぞ?
そして、ビックリしてしまうまでに乙女をしているんじゃないのか?
だからだろう。
そこから、パインはニッコリと朗らかに微笑むと、
「ありがとう……母様」
心からのお礼をりんごさんへ返した。
これには、りんごさんも笑顔になる。
「うん、そう答えてくれると信じていたわ? パインが母様を信じてくれた様に、母様もパインを信じていたのよ? あなたは優しい良い子であると、ね?」
答えたりんごさんは、温和な瞳を作ってから、再びパインの頭を撫でた。
母親としての愛情が、たっぷりと込められていた。
なんともホッコリしてしまう光景が、まったりと作り出されていた。
けれど、ハートフルな空気に包まれるのは、ここまでだった。
りんごさんには、やるべき事があったからだ。
破滅の女神となってしまったココナッツ様に、母親としてキツいお灸を据えると言う、りんごさんなりの親心を……だ。
りんごさんは、やっぱりココナッツ様が許せなかったのだろう。
元来なら、自分だって破滅の女神になってしまうと言うのに、パインだけを一方的に責めていた、その行為を。
双子の姉妹であるのなら、尚更分かり合える筈だと言うのに、それでも頑なにパインだけを悪者に仕立て上げようとしたココナッツ様には、業を煮やしたに違いないのだ。




