表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1281/1397

二人の女神と母と勇者様【14】

 いや、見た目で相手を判断するのは失礼か。

 実際、シリアとか言うお嬢様は本気で荒ぶっているからな?


 完全に怒りで我を忘れていたシリアは、背後に破滅の女神と化したココナッツ様がいるのにも関わらず、りんごさんへと自分の拳を振り抜いていた。


 ……と、同時にパインが動く。


 果たして。


 ドコォッッ!

 

 シリアがりんごさんを殴ろうとした直前の所でパインが素早く前に立ち……勢いが収まらなかったシリアの拳は、パインの右頬をジャストミートさせてしまった。


「……っ⁉︎」


 突発的に立ち塞がって来た事で、勢いを緩める事が出来ないまま、ついついパインの右頬を殴ってしまった事実に気付いたシリアは、瞬時に瞳を大きく見開いた。


「パ、パインさん!……ど、どうして……?」


 シリアは困惑を隠す事が出来ないまま、パインを見据える。

 

 パインを殴ったのは、もちろん本意ではない。

 むしろ、咄嗟にりんごさんを庇ったパインを見て、思わず目を白黒させてしまった程だ。


 すると、パインは打たれた右頬を右手で軽く摩りながらも声を吐き出す。


「怒りは争いを生み出し……破滅へと導いてしまいます。どうか……お願いです……気持ちは分かるのですが……その怒りを、沈めてはくれませんか……?」


 答えたパインは、シリアへと懇願するかの様な態度だった。


「………」


 シリアは歯を大きく……激しく食い縛る。


 そうだな……確かにシリアさんの無念は分かる。

 何だか良く分からないまま、いきなりミナトが殺されてしまったのだから。

 

 厳密に言うと、ミナトが『殺された様になっている』のが正解なのだが。


 ……むぅ。


 しかし、りんごさんはどうして、この様な真似をしていると言うのだろう?

 事態は明らかに混迷を極めている。


 破滅の女神と化してしまったココナッツ様は、りんごさんへと殺意の波動にも似た視線をアリアリと見せ……今にも叩き潰そうとしていた。


 そして、シリアもまたパインの態度には業を煮やしている。

 余りにも理不尽で、一方的で……無慈悲な殺され方をしていたミナトの仇が討ちたくて仕方ない……そんな顔をアリアリと見せていた。


 ……そんなシリアに対し、


「……お願いします……これ以上……私は……私は……憎しみから、悲劇を生み出したくない……ないんですよ……うぅぅぅぇぇ……」


 いきなり泣き出し、しゃがみ込んでしまったパインがいた。

 パインが見せる、シリアへの精一杯の嘆願であった。


 ……シリアの表情が複雑にクシャッ! っと歪んでいた。

 感情が大きく激しく揺らいでいるのが、その表情を見ても分かった。


 しばらくして。


「……本当、調子が狂うよ……パインさんには……」


 答えたシリアは、顔を俯かせた状態のまま、力無くミナトの元に戻った。


 きっと、シリア個人はりんごさんに対し、煮え切らない想いで一杯だったに違いない。


 しかし、パインの言っているのも道理で。

 憎しみからは憎しみしか生まれないと言う、実に女神らしい気概を言霊に乗せていた。


 故に、シリアとしても上手く反論する事が出来なかったのだろう。


 特にパインは、強い負の感情に心を壊してしまい、憎念に心を奪われてしまっている。

 そう言った過去の教訓から来ている言葉だけに……どうしても重く感じてしまったのかも知れない。


 パインの言葉に応じる形となったシリアは、間もなく近くに寝かせていたミナトの元へとゆっくり歩いて行くと、


「ミナト……ミナトォ……どうして……どうして、あなたがこんな事にならないと……うぅ……うぅぇぇ……」


 ミナトを力一杯抱きしめつつ、静かに啜すすり泣いた。


 ……なんともやるせない。

 これがちょっとした小芝居の様な代物であると分かっていても尚……シリアの悲しむ姿を見るのは、私的に良心の呵責かしゃくを覚えるに値した。


 ……尤も、実際にミナトが死んでいない事は分かり切っている身からするのなら、単にシリアを騙しているだけと言う事になるので……うむ、取り敢えずここは気にしなくも良いよな?

 そうして置こう。


 気を取り直して。


 他方……りんごさんは、破滅の女神化したココナッツ様の前に立っては、太々しい微笑みを高飛車に浮かべては、


「……どう? これで、パインの気持ちが分かったかしら?」


 これまた高飛車としか、他に形容する事の出来ない口調で答えていた。


 返事は、拳で返って来た。


 ゴォォォォッ!


 唸る様な剛拳だった。

 振り抜けば、それだけで強烈な拳圧が、衝撃波とセットになってりんごさんにやって来そうな勢いだった。


 しかし、りんごさんは微動だにする事なく……その場に立ち尽くしたまま、スゥッ……っと右手を上げ、


 ピンッッ!


 振り下ろして来たココナッツ様の拳をアッサリかわしては、カウンターとしてデコピンを額にぶつける。


 ……刹那。


 ドンッッッッ!


 おおよそ、デコピンの一撃とは思えない程の衝突音じみた激音が周囲に轟き、ココナッツ様が物凄い勢いで吹き飛んで行った。


 ………。


 りんごさん、最強説……あるな、これ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ