二人の女神と母と勇者様【13】
……と、なんとも羨ましい、女神様からの能力はさて置き。
「これが落ち着いていられる内容だと思うのですかっ! 母は……私の愚劣な母親は……最もっともやっては行けない蛮行を働いたのです! これを許す事など……私には出来ません!」
私の言葉なんか聞く耳すら持たないココナッツ様は、強引に私の制止を振り切ってしまった。
そして、右手を朱色に染めたりんごさんの前にやって来る。
すると、りんごは更に妖艶な笑みを色濃く作ってから、ココナッツ様へと答えた。
「これは『あなたが反省する為に』行った事よ? 決して愚行でも蛮行でもないわ?……精々、反省する事ね?」
「……言いたい事はそれだけかぁぁぁぁぁっ!」
からかい口調で言うりんごさんの言葉を耳にしたココナッツ様は、大きく猛烈に……喉がはち切れんばかりに叫んだ。
同時に……頭の何処か……精神の中にあったであろう、タガの様な物がプツン……っとなっている様な? そんな、怒りばかりが何歩も先を行く鬼の形相をアリアリと見せるココナッツ様がいた時、
ズゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッッッ!
大地が大きく揺れる。
そして、ココナッツ様の背後にどす黒い……オーラの様な渦が出来上がっていた。
「……っ⁉︎」
その姿を見て、パインが大きく息を呑む。
私も似た様な顔になってしまったよ。
もはや、女神・ココナッツじゃないね、これは……。
普通に禍々しい何か……邪神みたいな存在になっている物。
これ、マジでどうするの?
もはや収集が付かない事態にまで発展していた頃、パインの近くにいたりんごさんは笑みのまま言う。
「あの姿こそが、巷で噂になっている『破滅の女神』ね?……つまり、大昔に『あなたが起こした衝動の姿』でもあるわ?」
「……あの姿が……?」
りんごさんの言葉を耳にし、パインは思わず身体を震わせた。
……ああ、やっぱりか。
なんとなく、そうではないかと私も思っていた。
見れば、ユニクスもまた、一定の納得を示す感じ顔を作っている。
気付けば、ユニクスの後ろ……私の真隣辺りにやって来ては、ちゃっかりユニクスの『全てを守り抜く勇気』の恩恵を受けていたアリンもまた、予想通りと言わんばかりの表情を作り出していた。
てか、アリンちゃんはいつの間に、私の隣に来ていたのかな?
行動がミラクル早過ぎて、か〜たまは気付けなかったのだが?
アリンの場合は、素で空間転移魔法が使えるし、私に気取られる事なく間近まで接近していても、何らおかしな事ではなかったんだけど、やっぱり地味に驚きだった。
……って、そんな瑣末な事はどうでも良かった。
ともかく、話しの続きと行こう。
ミナトが死んでしまったと勘違いしたココナッツ様は、結果的に自分自身が破滅の女神と化してしまった。
その姿にパインは大きく怯えていた。
それは、ココナッツの姿が純粋に怖いから……と言うのなら、実は違う。
「私にも……あんな恐ろしい化物になってしまう可能性が……あるのですね……」
パインは震えながら答えた。
……そうなのだ。
全てを破壊し……生きとし生ける者を、その概念を死に追い遣る、最悪の存在。
……破滅の女神。
そんな恐ろしい存在に、自分が成なり得うると悟った時……実感した時、パインは恐怖で震えたのだ。
確かにそうなるだろう。
今回は、パインとココナッツ様の立場が、綺麗に逆転していた。
簡素に言うのなら、パインはかつての自分を……今のココナッツ様を見る事によって知った。
なんて事はない。
自分が化物の様な存在になった……と言う事は、客観的に知ってはいたが、実際に自分の目で見たのは今回が初めてだった。
そして、心の底から痛感したのだろう。
こんな姿には、絶対になりたくない……と。
他方、その頃。
「この、人殺し!」
激烈な憎悪の塊となっていたのは、ココナッツ様だけではなかった。
金髪のお嬢様……シリアもまた、ココナッツ様と同じレベルの怒りを胸に抱いていた。
……うむ。
この表情を見る限り、シリアと言うお嬢様も、ミナトへとかなりのご執心である模様だな?
………。
もしかして、ミナトって言う少年は、かなりの女っタラシなのか?
忿懣やる方ないと言わんばかりに叫んだシリア。
……見れば、シリアが今にもりんごの襟首を掴もうとする勢いだ!
否、違う。
襟首を掴む所か、そのまま殴り掛かる勢いだ!
完全に怒りで我を失っていた。
かなり愛されていると言う事が分かった。
なるほどな? やっぱりミナトはこんな美人に最強愛されている訳か。
……でも、顔とか身なりとか、大した男には見えないのは、私だけであろうか?




