リダさん、裏山探検に向かう【9】
「切り札ってのは、簡単に出して良い物ではない。相手の力量が分からない時は特にそうだ......それと、相手に変な固定観念を持つのもナシだ。大きいから遅いとか、バカそうだから凄い魔法を使えないだろうとか、そう言う自分の勝手な思考が、お前らの命を危険に晒してしまう......逆に考えるんだ。巨体だけど早い行動をして来るかも知れない。バカそうだけど、極大魔法を使うかも知れない。どんな事も疑え」
......まぁ、ルミには無理そうではあるし、こんな殺伐とした戦闘の教え方ってもなぁ。
けれど、残虐非道なモンスターが相手であるのは、想定の範疇内でなければならない。
対人関係のノウハウを教えてる訳ではないし、モラルや道徳の話をしている訳ではないからな。
根本的に勝ちさえすれば、それは戦術......って言うレベルの戦闘なのが一般的だから、この位の感覚でないと、冒険者はやってられないんだ。
「なるほど、参考になったよ。ありがとうリダ」
素直に頷くフラウは、朗らかな笑みを色濃く作っていた。
普段は地味にヘソ曲がりな一面も見せるが、こう言う時は割と素直な返事をして来るんだよな。
シャギャァァァァッッ!
直後、巨大飛竜が憤怒の雄叫びを、物凄い勢いで放っていた。
ああ、もう......。
「やかましい!」
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォォォンッ!
巨大飛竜は爆発した。
もう、これでもかって勢いで爆破された。
......うーむ。
無意識に、私は左手の薬指にはめられていた、アインの指輪を見た。
魔法の苦手な私の為に残してくれた、アイツの形見みたいな指輪だ。
どうやら......。
「アインのヤツは、本気で私を死なせたくない見たいだな」
別に疑ってた訳じゃない。
けれど、何気なく放った超炎熱爆破魔法の威力を見て、私は確信したんだ。
この威力は、かつて放ったフレインダムドの中でも最大級の威力があったと。
案の定、巨大飛竜は粉微塵状態になってしまったらしく、今では跡形もないまま、虚空だけがそこに存在していた。
もう三千世界に旅立ってしまったアインだけど......それでも、私を護ってくれてる。
なんとなく、そんな気がした。
......おっと、いかん。
柄にもなく、センチメンタルな気持ちになってしまった。
「うっかり、超炎熱爆破魔法を使ってしまったが、この魔法もかなり使えるぞ?」
私は軽い口調で言うと、
「それは、使える人が言う台詞だし......」
ルミが地味にいじけて見せ、
「リダさんよ......アンタは天才だから出来るかもだけど、私ら一般人には出来ない芸当なんだよ、その究極魔法は......」
メランコリーな顔になってブツブツ言い出すフラウがいた。
ま......まぁ、この魔法は少し難しいからな。
その内、頑張って魔導式を理解して行けば、いつかは使える様になると思うぞ?
......ん?
いや、まて?
「ルミは前に一回、使ったろ?」
傍迷惑な事にも、地下の酒場で使いやがったアレだ!
「......いつよ?」
......。
覚えてないのか?
酔った勢いで出来るとか......どんな酒乱女なんだよ、お前は。
まぁ、良い。
どの道、今後は絶対にお前に酒は飲ませんっ!
「まぁ、いいさ......取り敢えず、次の階に行こう」
私は周囲のメンバーに促す形の台詞を述べてから歩き出した。
その先には、パラスが。
「リダ......今度で良いんだが、俺にも稽古を付けてくれないか?」
やたら真剣な眼差しで言うパラスがいた。
そこには、純粋な強さへの熱意があった。
貪欲に強くなりたい気持ちとも表現出来るが......なんとなく、少し違う気がする。
単純に......本当、足し算より分かりやすい位に単純に。
ただただ、強くなりたい!
こうしたいから強くなりたいとかではなく、がむしゃらにひた向きに強さへの執着心を強く見せている。
......うーん。
余り、強くなる事だけに固執するのもどうかとは思うんだが......。
「考えておくよ」
穏やかに、やんわりと答えた。
遠回しな断りの文句にも聞こえなくはないが、そんなつもりはないぞ?
そう遠くない内に、胸を貸してやろうじゃないか。
パラスもきっと、新時代に生きる新たな希望になるのだから。
「ちゃんと考えていてくれよ? 俺はお前よりも強くなるんだからな!」
ははっ!
相変わらず、口だけはデカイ事を言うねぇ。
「楽しみにしておいてやるよ」
そうなったらなったで、むしろ私は嬉しいぞ。
私は新時代の若手に淡い期待を持ちつつ、先に進んで行くのだった。




