二人の女神と母と勇者様【12】
他方、その頃。
「あ、その……大した事ではないんで」
不思議そうな顔をして振り向いて来た通行人がいた瞬間に、ミナトが見えなくなる様な角度に身体を移動し、即座に温和な笑みのまま、通行人へと声を掛けるういういさんといよかんさんの二人が。
まぁ、ここは天下の往来だからな?
しかも、朝早くだから、通勤ないし通学目的の通行人がワラワラ居る訳だ。
よって、なるべく自然な形で出血多量なミナトの惨状を見せない様にする努力が必要となって来る。
そこで、すかさずいよかんさんとういういさんの二人がやって来ては、どうにかこうにか誤魔化す感じの行動を取って来たのだが……なんて言うか、驚きのコンビネーションだな?
だってこれ、りんごさんと根回しをしていたとか、そう言うのは一切ないぞ?
私の予想に間違いがないのであれば、二人の行動は完全なるアドリブであり……このアドリブが自然と身に付いてしまった背景には、普段から面倒な事を頻繁に発生させているので、咄嗟に動ける様になっていた……と言う、草しか生えない残念な事実が存在している様に見えた。
てか、そうだろ? これ?
ある意味、これも一つの特殊スキルなのかも知れない。
会得したいとは思わないスキルではあったが。
閑話休題。
「………」
パインは未だ硬直状態だった。
一見すると、言葉を吐き出す事が出来ない心情にある……そう見える。
事実、絶句してしまうまでの惨状が起こっているし、近くに居るシリアもパインの心中を察するかの様な表情を取ってもいた。
だけど……違う。
パインが何も口を動かさなかったのは、単純に悩んでいるだけなのではないか?
つまるに、りんごは何がしたいのか? そっちを中軸にして思い悩んでいるんじゃないのだろうか?
あるいは、まだ半信半疑な部分もあるのかも知れない。
本当はミナトを殺すつもりがあった……その可能性すら、パインの心情には存在しているのだろうか?
どちらにせよ、怒りのベクトルだけを単純にりんごへとぶつけては居なかった。
「母様! あなた……あなたは、やって良い事と悪い事の違いすら分からないのですか!」
シリアからやや遅れる形で、ココナッツ様の怒鳴り声が周囲に響き渡る。
激烈な怒気を孕めた激昂だった。
元からりんごさんに色々と言われ、フラストレーションがパンパンに溜まり……冷静さを欠いていたココナッツ様だけに、本気でりんごさんがミナトを殺したと思い込んでしまった模様だ。
……むぅ。
やっぱり、その差は歴然としているな。
何が歴然としているか? って?
そりゃ、パインとココナッツ様の態度さ。
完全に怒り一色に染まり、平静さの欠片すらも維持出来ないココナッツ様の姿は、今にも鬼神か何かへと変貌を遂げてしまいそうな勢いだった。
……ん? 待て? 鬼神?
いや……まさか、な?
確か、りんごさんは言っていた。
パインとココナッツの二人は『どちらも同じ存在だ』と。
双子の女神であり、生まれた時に至っては全くの同一人物だった。
育って来た環境と、その後の経験が大きく異なる為、現在は同一視する事が出来ない部分も間々見られるかも知れないが、元を辿れば全く同じ存在だったのだ。
つまり、それは……パインと同じ境遇になってしまえば、ココナッツ様もまた破滅の女神になってしまう……?
ははは……さ、流石にそんな事はない、よな?
内心、ちょっとだけ焦る私が居た……その時だった。
ブォォォォワァァァァァァッッッッ!
周囲に、強烈な旋風が巻き起こった!
「え? ちょっと、ココナッツ様? 待ってくれないか? も、もう少し冷静になろう!」
周囲に強烈な衝撃波を撒き散らして来たココナッツ様を見た私は、思わずアセアセとした顔のまま声を放ってみせる。
まさか、本当にこうなるとは思わなかったぞっ!
マジ笑えないんですけどっっ⁉︎
突発的にココナッツ様の周囲から暴風とも衝撃波とも付かない風圧が私達を襲う!
その瞬間、さっきまで真っ黒こげ状態にあったユニクスが素早くやって来ては、私とアリンの二人を守って来た。
……ほぅ?
なるほど、こう言う使い方があるのか。
緊急事態なのは分かっていたが、ユニクスの行動を見て……私はちょっと感心してしまった。
常時発動能力である為、意図的に発動するまでもない代物ではあったのかも知れないが、ユニクスは『全てを守り抜く勇気』を発動させた状態で、私達から衝撃波を守り抜いていた。
私の前で両腕を大きく広げ、衝撃波を一身に受けると……その後ろには一切の衝撃波が来なかった。
まさに『全てを守り抜く』と言う言葉に偽り無しだ。
そして『全てを守り抜く勇気』のスキルには『どんな一撃であっても絶対に一撃だけは完全に受けられる』と言う特殊能力も付与されている。
女神様の能力付与って、やっぱり人間には余りある能力だよな。
今更ながら、私はふと思ってしまった。




