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二人の女神と母と勇者様【11】

 他方、りんごさんは落ち着き払った態度で、ゆったりと微笑みを浮かべている。


 パインの母親と言う立場的な意味でもミナトに有利だと言う部分もさる事ながら、精神的にも優位に立っていると見ても良いだろう。


 ……でも、正直、りんごさんが何を考えているのかは良く分からないな?


 この人は、みかんの妹だけに、かなり突拍子もない事を平然とやるからなぁ……。


 何と言うか、今のりんごさんは『これからあなたに悪戯いたずらをします!』って顔をしているんだよなぁ……?


 りんごさんとの付き合いは短いと言うか、皆無に近いんだけど……これに酷似した態度をみかんもやって見せていたりもする。

 やっぱり姉妹ってのは似る物なのかねぇ?


 ……なんぞと、妙に嫌な予感が、胸騒ぎを掻き立てていた頃、


「そうね? 確かに、あなたの言う事は筋が通っているわ? だって、この子は私の娘ですもの。母親の私がパインを引き取るのは筋が通っているわ?……いるのだけれど、今回に限って言うのなら……そこまでシンプルな話でも無いのよね?」


「……え? それはどう言う……っ⁉︎」


 事ですか?……と、ミナトはりんごに尋ねようとした時、


 シュッッ……!


 風を切る様な音と同時に、ミナトの胸元から鮮血が舞った。


「……へ?」


 ミナトはポカンとなる。

 

 果たして……ミナトの胸元に、りんごさんの右腕が埋まっていた。


 ……って、オイィィィィィッッッッ⁉︎


 いや、何をかまして来れちゃってんのっ⁉︎

 これ、確実にアウトな事してるだろっっ!


 私は思わず蒼白になってしまった。


 何となく……その、本当に何となくではあったが、確かにいやぁ〜な予感はしていた。

 絶対に、これから周囲が騒然となってしまう様な事を普通にやって来るんじゃないのか?……と言う、妙な不安の様な物を抱き、胸騒ぎが止まらない心情へと陥っていた。


 しかしながら、それらの胸騒ぎも……嫌な予感さえも軽々と飛び越えてしまっている惨状が、眼前で当然の様に起こっていた。


 少し間を置き、胸元からりんごさんが手を引き抜くと『ブシャァァァァッッッッ!』っと、ミナトの胸元から真っ赤な鮮血が噴き出していた。


 に、人間の血って、こんなにも豪快に飛ぶんだな……。


 正直、ここまでド派手に噴射する血を初めて見たかも知れない。

 

 胸元を一突きされたミナトは、間もなくガックリと膝を着き……そのまま意識を失って行く。

 その直後、間近にいたパインが素早くミナトの身体を抱き締める形で支えて来た。


 いきなりミナトの胸から大量の血が吐き出され……その返り血を浴び……何が起こったのか分からないと言わんばかりの表情で、呆然となっていたパインであったのだが、倒れ込んで来たミナトの姿を見た所でハッと我に返る形で彼の身体を抱き止めたのだ。


「お母さん! い、いきなり何をするのですかっ⁉︎」


 一気に意識が覚醒したパインは、屹然とした面持ちでりんごさんを睨み付けてから、猛烈な怒気をはらめた語気をりんごさんへと飛ばした。


 ………うむ。


 なんだろうな?

 物凄く釈然としない。


 私的には、小芝居に見えて仕方なかった。


 理由は簡素な物だ。

 まずミナト本人なのだが……エナジーは全く減ってない。

 かなり凄まじい勢いで血がドバァァァッッッッ! っと放出されてはいたが、その割に生命エネルギーと言えるだろうエナジーは全く変化する様子がないのだ。


 これは、ハッキリ言って異様を通り越して不可思議だ。


 仮に、これだけの量の血を大概から放出してしまったのなら、ほぼ確実に即死だろう。

 もちろん、エナジーなんて一瞬で消失レベルと言える。

  

 所が、どうだ?

 ミナトのエナジーは全く減る事なく……むしろピンピンしているレベルだった。


 他方のパインにしても、やはり釈然としない。


 確かにパインは『本気で』驚いていた。

 かく言う、私も『りんごさんがミナトの胸を突いて大量の出血をさせた』と言う辺りまでは、あまりの出来事に言葉を失ってしまった程だ。


 けれど……そうじゃない。


 倒れたミナトの姿を見た辺りから、なんとなく……うん、本当になんとなくではあったのだが、妙に芝居掛かっている風にも見えてならなかった。


 確かに怒っている様に見えるし、実際に怒りがパインの中にも芽生えているのだろう。

 けれど、私は思うのだ。


 本当にミナトが『殺されてしまったのなら』この程度の怒りで収まる物なのだろうか?……と。


 もし、本当に殺されてしまった……と思っていたのなら、


「ミナトォォォッ!」


 この直後に絶叫して来た金髪のお嬢様……えぇと、シリアだっけ?

 ともかく、このが見せている様に、絶望と悲嘆を激しくミックスしているかの様な? そんな悲痛の絶叫を、喉が壊れそうな勢いで放って来る筈なのだ。


「ミナト! ねぇ? しっかりして? ミナト!」


 シリアは、必死の形相でミナトへと声高に訴え掛ける。

 しかし、完全に虚空を向いていたミナトの視点がシリアの方に向く事はなく……ただの骸むくろと表現しても良いまでに、一切の返事をする事はなかった。


「嫌ぁぁぁぁぁっっっ!」


 悲鳴にも似た、シリアの叫び声が周囲に大きく木霊する!


 ……うむ。

 普通に考えたら、こうなるんだよ。


 やっぱり、パインはちょっと冷静過ぎだな。

 あれか?……りんごさんが答えていた言葉『母様を信じなさい』と言う部分を、文字通り信じているからなんだろうか?


 事実はパインのみぞ知る状況だが、私なりにそんな事を、胸中で考えていた。

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