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二人の女神と母と勇者様【10】

 ミナトの言いたい事は分かるし、常識の上で行くのなら往来のど真ん中で、大きな箱に入っていると言う……これが本当の箱入り娘! 的な? そんな、身体を張った下らない駄洒落ダジャレでもやりたいのか? と、うそぶきにしても笑えない有様になっているだなんて、夢にも思わないだろう。


 その顛末に、ミナト本人までもがボケの引き立て役になってしまうと言う、実に残念極まる光景へと進展してしまっているのだが、


「えぇと……すいませんねぇ〜? ウチのパインが、まぁ〜た、変な事をしているみたいで〜?」


 しばらくすると、ミナトはヘコヘコと周囲の人間へと愛想笑いのまま頭を下げ、特段慌てる様子もなくリアル箱入り娘こと、パインの前へと向かって行った。


 ……うむ。

 中々に動じない少年だな。


 何と言うか、一定の慣れが存在している様にすら見受けられる。

 仮に、こんなアホみたいなシチュエーションに慣れているとすれば……ミナトはどんな生活をこれまで送って来たと言うのだろう?


 地味に聞きたい様な気もするが、ここは敢えて聞かないで置こうか。

 なんとなく、聞いたら疲れそうな気持ちも払拭する事が出来ないからな!


 そこはともかく。


「おい、パイン。帰るぞ」


 パインの前にやって来たミナトは、有無を言わせぬ勢いで声を吐き出すと、


「……嫌です」


 パインは即座に否定。


「そうか……分かった、パイン。それじゃあ帰ろうか?」


 そこから『私は納得しました!』って顔をしたまま、テイク・2で同じ要求を見せる。

 全然分かってないじゃないか。


「ミナトさんは馬鹿だとは思ってましたが、まさか言葉が通じないとは思いませんでしたよ」


 パインは眉間に皺を寄せてぼやいた。


 そりゃ、そうなるだろう。

 しれっと同じ台詞を言っていたんだからな?

 しかも、ちゃんと理解しました……って顔をして、だ?


 これ、どんなコントなんだよ?


 ミナトとパインの会話は、そこから更に続いた。


「おい、パイン。お前が何をそんなにイジけているのかは……まぁ、ちょっとだけ小耳に挟んだと言うか、面倒な話になっている……ってのは、俺なりに多少は分かる」


「本当に多少なのでは?」


「いちいち、突っかかって来るんじゃないよ!……ともかく、ほら、いつまで箱の中に入っているつもりだ? 馬鹿な真似してないで、いい加減帰るぞ?」


 そこまで答えたミナトは、パインの腕を掴もうとした……が、パインを掴もうとしたミナトの腕を、しっかりと素早く止める人物がいる。


 さっきから、パインの近くに陣取っていた……りんごさんだ。


 当人からすれば、単なる会話をしているだけなのだろうが、傍目からすると即席で出来たコントみたいなアホさ加減を、はからずして披露していたミナトに待ったを掛ける形で、りんごさんの腕がミナトの身体をさえぎる。


「……あの、申し訳ないですが、どちら様でしょう?」


 ミナトはちょっとだけ困った顔になりながらも、りんごへと尋ねると、


「りんごと言うわ? パインの母よ。娘がお世話になっているわね?」


 りんごさんは笑みのまま、ミナトへと軽い自己紹介なんぞをしてみせた。


「……え?」


 ミナトはポカンとなる。

 表情を見る限りだと、りんごさんとは初対面なのだろうな?


 いや、そもそもりんごさんの存在を最初から知っていたのであれば、パインへと声を掛ける以前に、りんごへと挨拶程度の事はしたであろう。


 そこらから考慮しても、ミナトがパインの母であるりんごさんを知らなかった事は明白だった。 


「えぇと……そうですか……すると、パインは母親のりんごさんが引き取る……と言う事でよろしいのでしょうか?」


 ミナトは、自分なりに知恵を捻り出す形で口を動かして行く。


 なんとも複雑な心情が、ミナトの表情から伺えた。

 実際の所は、私にも分からない……しかし、これまでのミナトはパインにとって一番近しい存在だったのではないのだろうか?

 チアキの地下迷宮でずっと深い眠りに就いていたのだから、パインに知人や親類がいる方が不自然と言えるだろう。


 ここらを加味するのであれば、パインが一番親近感を抱いていたのはミナトであり、ミナトもまた家族同然の扱いをパインに見せていた。

 よって、パインに対する態度は完全なる身内サイドの立場として行動するミナトであったのだが……ここに来て、本当の身内がやって来てしまったのだ。


 家族同然ではあったが、本当の家族と比較すれば、ミナトは完全なる他人だった。

 もちろん、単なる他人となる為、立場も一気に蚊帳の外へと押し出される事になってしまう訳で……。


 そんな自分がいる事に、ミナトは若干の焦りと焦燥感を抱きつつ……りんごさんへと口を開いている。

 ……様に見える。


 ま、ここは飽くまでも私の推測だ。

 実際に、ミナトが何処まで考えているのかまでは分からないな?

 ただ、表情を見る限りでは、一抹の焦燥感は拭えない……そう見えた。

 

 他方のパインも同じだった。


 ミナトなりに自分の立場を弁える形で答えた台詞を耳にしたパインは、箱の中でピクッ! っと一瞬だけ反応していた。

 そこには強い拒絶と切なさが込められている……そんな気がした。


 結局、パインもパインで、ミナトとは何らかの絆を紡いでいたいのだろう。

 地味に素直じゃない女神様だな……おい?

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