二人の女神と母と勇者様【8】
……だが。
「アンタのやっている事は、母親として見過ごせないわ? ちょっとは反省なさい?」
再び口を動かしたりんごさんの言葉に、
「………」
ココナッツ様は無言。
彼女の口から『ごめんなさい』と言う言葉が出る事は……とうとう、無かった。
否、それ所の話しではない。
「……言いたい事はそれだけですか?」
長い間を取ってから、ココナッツ様はポツリと答えた。
答えたココナッツ様の瞳は……深い憎悪の念で埋まっていた。
………。
う、うむっ!
これは、ひじょぉぉぉぉぉに危険だなっ!
「えぇと、だ……ココナッツ様? 今回に関しては、りんごさんの言い分も分からなくない……って言うか、もう少し冷静になって話しをした方が良いと思うんだ」
咄嗟に私はココナッツ様へと助言する形で声を吐き出した。
正直に言うと、りんごさん達の会話に私が割り込むのはかなり無粋な話しだと思っていたし、横槍を入れているかの様で気が引けるのだが……けれど、今のココナッツ様を放って置く訳には行かない。
今のココナッツ様は危険だ。
普段の冷静なココナッツ様であったのなら、間違ってもこんな態度は取らなかったろうし、女神様であっても感情的になる時もあるんだなぁ……と、珍妙な感心すら抱いている。
多分、これは『りんごさんが言っているから』ココナッツ様も感傷的になってしまうのではないか?……そう、私は思えたのだ。
よって、ここで第三者である私の言葉をココナッツ様に加える事で、しっかりと冷静さを戻してくれるのではないのか?
「りんごさんの話を聞く限りだとさ? 場合によってはココナッツ様が破滅の女神になっていたかも知れないんだろう?……それなら、パインだけが悪いと言うのは、やっぱりおかしいと思うんだ」
思い、私は可能な限り友好的な笑みを作っては、諭す形でココナッツ様へと答えた。
頼む……私の気持ちをしっかりと汲み取ってくれ!
「ちょっと、待って下さいな? まさか……リダさん、私を裏切るつもりなの?」
……ぐむぅ。
結論からすると、余り効果は無かった。
ココナッツ様の心から怒りを払拭する事は叶わず……むしろ、私に懐疑心を抱く結果を招く。
……参ったな。
どうやら、私の考えている以上に、ココナッツ様の精神は平常心から遠ざかっているらしい。
さて、困ったぞ?
これまであった怒りの矛先が、私の方にまでやって来た状況に、幾ばくかの重圧感を抱いていた頃、
「失礼な事を言わないで頂けますか? ココナッツさん。リダ様はアナタの頼みを聞いて、こんな……キータくんだりまで来てはいますが、アナタへと忠誠を誓った記憶などないでしょう? 飽くまでも中立であるのは当然……違いますか?」
颯爽と私の前にやって来ては、ココナッツ様から庇う形で立ってみせたユニクスが、極めて冷ややかな目を向けながらもココナッツ様に反論して来た。
まぁ、間違いではない。
だからして、私もここまでなら否定もしない……しないのだが、
「よって! この私! ユニクスはリダ様の忠実な下僕として……はぁはぁ……リダ様の……はぁはぁ……リダ様の柔肌を堪能出来る観光地を所望したい!」
ドォォォォォォォンッッッッ!
至極当然の様に続きがあったので……私はユニクスを問答無用で爆破して置いた。
今、真面目な話しをしてるんだから、無駄な茶番を入れて来るんじゃないよっ!
……え〜。
とりま、仕切り直しで。
私は真っ黒こげになっていたユニクスをナチュラルに無視しながらも、真剣な顔になってココナッツ様へと口を開いた。
「変態勇者は、取り敢えず置いておこう。それよりも、さっきの話しの続きなんだけど……もしかして、ココナッツさんは知っているんじゃないのか? 破滅の女神が完全にこの世界に降臨しない『平和的な解決策』をさ?」
「……その方法は言いませんでしたか? そこにいるパインを再びチアキの地下迷宮へと封印させる事です。元来であれば、討ち滅ぼすと言う方法さえ視野に入れてはおりましたが……実際に、パインは『まだ』破滅の女神にはなってませんからね? それなら……」
速やかに封印させるべきです!
……と、私に叫ぼうとしていた時だった。
「違うでしょう、ココナッツ? 条件が『平和的な解決策』であるのなら、もう一つあるじゃない」
りんごさんが笑みのまま、ココナッツの言葉を遮る様にして声を出して来た。
……ふむ。
なるほど、やっぱりそうなるのか。
一応の予測はしていた。
話しが一辺倒過ぎていたからな?
公平に物事を判断するのであれば、ここはココナッツ様の言葉『以外』の、物にも耳を傾けなければ行けない。
同時に私は確信した。
やっぱり、りんごさんはパインとココナッツ様を『公平に見た上で』言葉を発している……と。




