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二人の女神と母と勇者様【6】

 他方のりんごさんは冷静そのものだ。


「そうかしら? 私からすれば、今のアンタがやっている事、行為その物こそが『遠回しの強制』をしている様にしか映らないわ? 結局、最後は自分に感謝させてやる!……って言う思考の元、せっせと慈善事業をしている。違う?」


 激情をあらわにするココナッツ様とは対照的に、りんごさんは笑みまで見せて声を返してみせる。

 なんて言うか……大人と子供の会話を見ているかの様だ。


 年長者としてと言うのも去る事ながら、母親として精神的な余裕が表情から見て取れるな?


「もちろん違います! 私は人々から愛される、立派な女神になろうと邁進してはおりましたが……」


 ひたすら微笑みを絶やす事なく、温和な表情のまま口を動かして行くりんごさんがいる中、ココナッツ様が真剣な顔のまま声を返していった時、


「……そこよ? 自分から重要なポイントを口にしているじゃないの。つまり『自分を良く見せようとしている』所ね?……別に悪いとは言わないわ? それはそれで大事な事だし? どちらかと言えば善行と表現してもおかしくないレベルでもあるからね?……だけど」


 ここまで述べると、りんごは温和な微笑みから顔付きを変え、一気に真剣な表情へと変化して行った。


「常に優等生でいる事が、必ずしも女神のやる事なの? 違うわよね? 一番の大切な事は、自分がどう見られるかではなく、この街が……この世界が平和である事なのよ? 違う?」


「当然ではありませんか? 母さん? だから、そこにいる破滅の女神を、この街から排除してやろうとしているのではありませんか?」


「……はぁ」


 胸まで張って叫び、ビシィッ! っとパインに指まで差して叫んだココナッツ様がいた所で、りんごさんは重々しい吐息を吐き出してみせた。


 ……むぅ。

 少しばかり雲行きが怪しくなって来たか?


 りんごさんは、酷く肩を落としている。

 優しく諭しているだけでは、ココナッツ様は納得しないと言う事に、少し失望している様に見えた。

 

 りんごさんの顔では言っている。

 ここまでしっかり説明しているのに、どうして分からないんだ?……と。


「……その考えが、そもそも間違っているのよ? せっかく私が『ここまでバカ丁寧に』言ってやったと言うのに……それでも分からないなんて」


「私は母さんの言っている事が分かりません。言うなれば私は正義の鉄槌を下そうとしているだけと言うのに……」 


「仕方ないわね? 更に話を掘り下げてあげる。今ある現状を考えなさい? どうして破滅の女神は生まれたの? パインはアダムの死によって絶望し……気が狂ったのよね? つまり『それだけアダムを愛していた』訳じゃない?」


「……なっ! それは聞き捨てなりません! 私だってアダムを愛しておりました! パインになど絶対に負けない程」


「……そうでしょう? そこは私も認めるわ? ココナッツ……『あなたもアダムを愛していた』のよ? しかも『パインと同じ』ぐらいに。つまり『どっちがなってもおかしくない』状態だったの」 


 ………。


 なるほど、そう言う事か。


 表情を変え、真剣な眼差しで答えたりんごさんの言葉を耳にして、私はハッと息を飲んだ。


 つまり……ココナッツ様とパインは、一緒なのだ。

 パインもココナッツ様も……同じ程度に強い絶望の淵に立たされていたのだ。


 しかし、破滅の女神になってしまうまでの強い絶望を『結果的に抱いた』のは、パインだった『だけ』で……可能性からするのであれば、ココナッツ様が破滅の女神になっていたとしても、なんらおかしな事ではなかった。


 そう考えるのなら、りんごがパインを擁護する理由も理解出来る。

 パインだって好きで破滅の女神になった訳じゃないのだから、より擁護すべき……そう考えても、特におかしな話しではないな。


 私的には、りんごさんの言わんとする主旨は理解したし、納得も出来た。


 けれど、ココナッツ様はそうでもなかったらしい。

 どうにも腑に落ちない感情が、顔に浮かんでいた。


 だからだろう。

 りんごさんは極論に出た。


「その上で行けば『条件はあなたも同じ』だったの?……もう、面倒だから極論を言いましょうか? 一つ間違えれば、破滅の女神は『あなただった』かも知れないのよ?」


 ズバッと言って来る。

 もう、ストレート過ぎて……私も思わず口をつぐんでしまった。


 事実、りんごさんの言い分は正しい。

 そして、を言わせぬばかりの直球ストレートな台詞だった。


 けれど……それでも尚、ココナッツ様は強く抵抗したい感情を全面的に押し出す態度を、一切崩す事はなかった。

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