二人の女神と母と勇者様【4】
だけど、なんかパインの表情は黄昏ていて……物憂げな表情は、完全に悲劇のヒロインにでもなったかの様な態度を見せていた。
やっている事は喜劇以外の何物でもないんだけどな!
「ああ、そう来たか……やれやれ、全く……本当にパインは相変わらずお人好しね?」
そう答えたのは、りんごさんだった。
みかん達の方が先に道端の大箱……パインと先に出くわしていたからなのか? りんごさんは最初からパインの近くに立ち、呆れ半分の声音を彼女に飛ばしていた。
一見すると、パインを馬鹿にしている『だけ』の様な態度にも見えなくはないが……しかし、私はそうではないと考えている。
私もさ? アリンと言う娘を持つ一児の母だからかな?
なんとなく、今のりんごさんが見せる表情と態度が、単なる呆れや罵倒から来ている物ではないと言う事が、なんとなく分かってしまったんだ。
こう言うのは、何処の家庭でも一緒と言う事なのかも知れない。
人間であろうと神様であろうと……な?
りんごがパインへと見せていた視線は、母親の愛情が込められていた。
面倒な事を仕出かしてしまった娘に呆れを抱きつつも……しかし、ちゃんと助けたいと言う暖かな感情が、りんごさんの視線から感じる事が出来たのだ。
他方……そこからりんごさんは、近くに立っていたココナッツ様へと顔を向けると、
「そして、あんたは『ズル賢い』わねぇ……全く、誰に似たのやら……」
心からの嘆息を口から吐き出しながらも、声を吐き出していた。
こっちもこっちで、母親らしい視線ではある。
しかしながら、パインに見せている視線とは明らかに異なった。
パインに見せたりんごさんの視線は、困った娘を助けてやろうと言う愛情が込められていた。
他方……ココナッツ様に見せたりんごさんの視線は、恐ろしく愚劣な行為に出た馬鹿娘を、どの様にして折檻してやろう? と、考えている瞳であった。
果たして。
「お前だ」
……とは、みかんの台詞。
きっと、嘆息混じりに答えた『誰に似たのやら』とか言う、嘯きの様なりんごさんの言葉に、みかんが素早く反応したのだろう。
私は思わず口元を痙攣らせてしまった。
こう言う時だけ、誰よりも早く動けるからな? みかんは?
「私はそこまでズル賢くないから!……つか、アンタは関係ないでしょっ⁉︎ ちょっと黙っててくれない?」
いきなり横からしゃしゃり出て来たみかんに、りんごさんは額に大きな怒りマークをくっ付けた状態で怒鳴り散らすと、すかさずみかんが反論する形で感情的に喚き返した。
「何を言うんだ、りんご! お前の娘と言う事は、みかんさんにとって姪に当たるんだぞ? 関係ないと言う事はないだろ! それに、もう一つみかんさんは主張したい! みかんさんは主役だぞ! これ『みかん本編』だぞ! 出番が少な過ぎなんだよぉぉぉぉぉぉっっ!」
叫んだみかんは、思い切り悲嘆していた!
………えぇと、だ?
みかんが、どうしてこんなにも残念な台詞を、四つん這いになって泣きながら語っているのかは……みかん本編で確かめてくれ。
ここはリダ本編だしな……序でに言うと、地味に身も蓋もない事を抜かしている事だけは、この台詞を見るだけでも十分理解して貰えると思う。
つまり、そう言う事だ!
深く考えては行けない!
「こんなのが、あんたにとって親戚なのは不本意かも知れないけれど……そこは置いておくわ? ともかく、このキノコは気にしなくても結構よ」
少し間を置いてから、りんごさんは周囲の面々へと口を開く。
……実に冷めた瞳だった。
きっと、みかん相手に真剣な態度をとっても無駄である事を誰よりも知っているが故の態度なのだろう。
適切な行動だったので、私も異論の余地がなかった。
そして、みかんを完全に無視する形で、りんごさんは再びココナッツ様へと視線を向ける。
「……で? 言い訳を聞こうかしら? ココナッツ? どうせあなたの『しでかした』事なんでしょう?」
「言い掛かりですよ、母さん? 私は破滅の女神が復活した事に強い危惧を抱いただけです。あの当時は周囲に街はなかった為……大惨事でこそあれ、悲劇が生まれる事はありませんでした。しかし、今のキータでかつての悪夢が甦れば……どんな悲劇が待っているか……」
少しキツめの口調で答えたりんごさんの言葉に、ココナッツ様もまた気丈な態度で反論していた。
その一方で。
「くそ、このぉぉぉぉ! コラァ、りんごぉっ! みかんさんを涼しい顔してしれっと無視すんじゃねーですよぉぉぉぉっっ!」
そのまま無視されて背景と化していたみかんが、りんごさんに向かって思い切りいきり立っては……胸ぐらを掴む勢いで襲いかかろうとしていたのだが、ソッコーでういういさんといよかんさんの二人に止められていた。
ういういさんと、いよかんさん……グッジョブ!




