女神と剣聖と勇者様【23】
冒険者の仕事をしていると、常に相手との駆け引きを強いられる。
そこが一番厄介な所であり……腕の見せ所でもある。
単刀直入に言おう。
騙し合いなんて、日常茶飯事であると言う事だ。
もちろん、相手を騙して金品を略奪すれば詐欺罪に問われる事になるし、実際に詐欺で捕まる冒険者だって普通に存在している。
けれど、しっかりと騙し切れば……罪には問われない。
なんでか?
答えは至ってシンプル。
私は騙されました!……と訴える人間が居ない限り、この手の犯罪は根本的に立証される事がないからだ。
悪辣な冒険者の場合は愚の骨頂だからな? 即席パーティーで入ったパーティーメンバーを騙して奴隷商人に売っ払う……なんて悪党がいる程だ。
奴隷として商人に引き取られてしまった人間が、騙されました! と、法廷の場に立てるのかと言えば……まぁ、可能性からして絶望だろう。
この様に『訴えられない方法』で、相手をまんまと罠に掛ければ良いと考える無法者は、残念な事にも冒険者の中に一定数存在しているのだ。
よって、冒険者をしている以上、相手の素振りや表情を即座に読み取ると言う能力は、自分の身を守る上でとても重要になって来るのだ。
ミナトとか言う少年は、実に練達した冒険者っぽい態度なんだよ。
少し腰抜けな態度ではあるんだがな?
けれど、判断としてはかなり賢明であった。
だって、女神様だしな?
ミナトが女神・ココナッツの事を知っているかまでは知らないが……確実に、特殊なオーラとか出てるし、ただならぬ気配を感じ取ってはいたであろう。
冒険者は、根本的に危険と察知した場合は、絶対に手を出さない。
蛮勇を犯した事で短命に終わってしまった同業者を嫌と言う程、見ているからだ。
ミナトの態度は……その判断は、全く同じなんだよ。
だから、私は困惑した。
仮にミナトが冒険者だったとしよう?
……致死率が高いぞ?
少なからず言える事は、近所の建築屋でバイトするよりも高いぞ?
一歩間違えば死が待っているからこそ……冒険者の所得は高めなのだ。
死と隣り合わせだからこその手当と言える。
そうなれば?……どうなるだろう?
ミナトが若くして死亡する可能性は、決して低くはないと言う事だ!
同時に……破滅の女神が再び降誕する可能性も、決して低くはないと言う結論に達する!
これはマズイな……早急に何らかの手を打つ必要があるだろう。
むぅ……。
あんまりやりたい方法ではないのだが、ここは世界・冒険者協会の会長として、ミナトの保身を考えるべきなのだろうか……?
そうすれば、パインが破滅の女神として降誕する可能性がグンッ! っと低くなるだろう。
ココナッツ様だって安心してくれる……かなぁ……多分、きっと……?
………。
問題は、ここにもある。
ココナッツ様が『もう一人のイヴである』と言う部分だ。
アリンが、三歳児とは思えない、とてつもなくマセた台詞を臆面もなく口にしていた訳なのだが……あれが正答であると、私も睨んでいる。
こうなると、話しは実にややこしい事になってしまう訳だ。
パインは、転生後のアダム……つまり、ミナトと一緒に住んでいる。
微妙にコミカルな関係を保っている模様ではあるが、それなりに仲は良さそうだ。
これを、ココナッツ様はどう見るか?
順当に考えるのであれば、パインと言う存在が恨めしい……と、こうなるだろう。
ココナッツ様だって、もう一人のイヴであり、アダムを愛した女神でもあるのだ。
当然ながら、パインにアダムを渡したいとは思えない。
なら、どうする?
奪還するしかないだろう!
果たして、ココナッツ様は奪還に当たっての大きな大義名分を持っていた。
それが……破滅の女神を討伐ないし封印すると言う代物だな?
蓋を開ければ、単なる痴話喧嘩かよ……本当、勘弁して欲しい所だ。
けれど、私としても黙って見過ごす訳には行くまい。
最低でも酒代程度の働きをしなければ、絶対にココナッツ様は満面の笑みで私に支払いを求めて来るに違いないのだからなっっ!
……とは言え、私に出来る事なんてあるのかどうか……?
いや、違う! 違うぞ! リダ・ドーンテン!
ここで弱気になってどうする!
ちゃんと必死になって考えれば、絶対に打開策は見つかる!
まだ、絶望する時間ではないっ!
………と言う所で、今回はここまで!
次章では、二人の女神の気持ちをメインにしたお話しを語って行くぞ?
破滅の女神であったが故の自責によって消沈するパインと、大義名分を盾にパインを責めるココナッツ様!
……って、こんな風に語ると、ココナッツ様が一方的に悪役?
いや、正義はココナッツ様にあるぞ! 多分!
そんな二人の前に現れたのは……二人の母親?
次回・二人の女神と母と勇者様!
……見ないと爆破だ!
もちろん、爆破は冗談です。




