女神と剣聖と勇者様【20】
半ば強引に話しの中に入って来るココナッツ様がいる中、パインは答えた。
「知りませんねぇ? そんな、女神の名前なんて? 大昔は女神でもなんでもなかった癖に、始まりの女神とか呼ばれてチヤホヤされている女神なんて、私は知りませんし〜?」
「……思い切り知ってんじゃねーか」
パインはミナトの背に隠れた状態で、思い切りスッ惚とぼけてみせた。
ミナトの言葉が道理過ぎて大平原が見えそうなんだが?
「ちょっ!……待って下さいミナトさん! どぉぉぉぉして、こう言う時はスグにツッコミを入れて来るんですか! 普段の私には、全く入れて来ないくせに! 構って欲しい時にはツッコミを入れて来ないのに、こう言う時だけソッコーで入れるとか、何様なのですか! アナタはっ!」
「家主様だ!」
「酷っ⁉︎ つまり、あれですか? 家主だから、私を好きにしても良いと言う話ですか? そんな理不尽が通るとでも思っているのですかっ⁉︎……ああ、嫌だ嫌だ……こんな横暴が罷まかり通るなんて、世の中は腐ってます!」
「そうか? じゃあ、出て行くか?」
「ミナトさぁ〜ん! 見捨てないでぇぇぇっっ!」
笑みのまま、サラっと答えるミナトに、パインは思い切り泣き付いて来た。
………。
何だろうな? このビックリする位にグダグダな茶番劇は?
「ねぇ、パイン? アナタには分かるでしょう? 今、アナタがやっている事が『どれだけの災いになる』のか? 忘れたとは言わせないよ? かつて、この地を荒野に変えたアナタの罪は、今でも決して無効であるとは思ってない物……何より『もう一度、破滅の女神』になりたいの?」
「……っ!」
二人の間に入る形でやって来たココナッツ様の言葉を耳にした瞬間……パインはピクンッッ! っと、身体が跳ねた。
物凄い直球の言葉を投げて来た……そんな感じに私は思えた。
数々の感情を封印されたとは聞いていたが……記憶まで封印されていると言う話しは聞いていない。
正確に言うと、一部のアダムに関与する記憶だけは封印されているらしいのだが、それ以外の部分はむしろ明瞭に残っているんじゃないだろうか?
アダムに関与する記憶を封印させたのは……イヴであるパインが破滅の女神となってしまった素因でもあったからだ。
りんごとしても、再びパインと破滅の女神にさせるのは本位ではなかったのだろう。
パインが破滅の女神となってしまう要因を、記憶を含めて尽く排除する事で、万が一にもかつての悲劇を繰り返さない様に創意工夫した結果が、今のパインと言える。
よって、パインは覚えている筈なんだ。
かつての自分が破滅の女神として、キータ地を焼け野原に変えてしまった記憶を……さ?
だからこそ、ココナッツ様はパインへと言う事が出来る。
「もう一度、罪を犯したいのであれば勝手になさい……但し、当然かも知れないけれど『次はアナタを殺す気で』私も対抗させて頂くわ?」
神妙な面持ちで、大きく非難する事が……だ。
私的には、少し辛辣過ぎるんじゃないのか? そうとも思える。
事実、ココナッツ様も、元来であるのならもっと優しい言葉を選ぶべきだったのかも知れない。
けれど、ココナッツ様は敢えて厳しい言葉を選んでいた。
ともすれば、それは双子の姉妹であるパインであったからこそ、敢えて叱咤と形容出来よう文句を選んでいたのかも知れない。
何故なら、ココナッツ様にとってパインは自分自身と述べても過言ではないまでに近い存在であったからだ。
簡素に言うのなら、自分自身に対して述べている様な? そんな感覚だったのではないか?
それらを加味するのであれば、ココナッツ様はどうしても出来なかったのだろう。
……自分に対して甘い言葉を言う……その行為その物が、だ。
「………」
ココナッツ様の言葉に、パインは一言も口を動かさず……ただただ、蒼白のまま俯いていた。
返す言葉もない……そんな顔をしていた。
事実、パインは破滅の女神として、大暴れをしたと言う大罪を犯していた。
それだけに反論の余地など微塵もなかった。
何とも居心地の悪い空気が周囲に生まれる。
……これ、私はどうすれば良いんだろうな?
それとなく、私はユニクスを軽く見据えた。
ソッコーで視線を逸らすユニクスの姿があった。
よし、爆破二回なっ!
「あのぅ……ちょっと事情が分からない自分がしゃしゃり出て言うのも変ではあるんですがね?……だけど、まぁ……その、ウチのパインも反省しているみたいなんで、今日の所は勘弁してあげては貰えませんか?」
その時、ココナッツとパインの間に入って来たミナトが、やんわり笑みを浮かべながらも仲裁に入って来る。
うむぅ……ミナトって言う少年は、中々に頼れる男だな。
冴えない顔をしている外見とは裏腹だ!
やっぱり、人は外見で判断しては行けないと言う事なのだろう。
ま、当然と言えば当然の事だな!
私は最初から分かっていたぞ? うん、分かっていたとも!
………。
すみません、実はパッとしない男だと思ってました!




