女神と剣聖と勇者様【19】
つまり、互いに痛み分けとなってしまうのは明白だった!
むしろ、分が悪いとすら思っている!
だって、私……冒険者協会の会長だもんっ!
会長が、今回の様な不祥事を起こした……なんて事実が、公の場に出てみろ?
もはや、マスコミの良い養分だ!
間違いなくとんでもない事になってしまうだろう!
引責辞任は免れないし、しばらくは色々なバッシングが、協会へと飛び込んで来る事は必死だ!
正直、会長職を失う事に関してはどうでも良いんだが……冒険者協会に迷惑を掛ける訳には行かないからなっ!
「……う」
私は思わず呻きにも近い声を口から吐き出してしまった。
我ながら、地味に恥ずかしい態度だ……もうちょっと、しっかりした態度を取る事が出来なかったのだろうか?
見れば、ユニクスもやや困惑した顔になっている。
どうして良いか分からない……そんな顔だった。
他方のアリンは地味に冷ややかな顔になっている……って、止めてアリンちゃん! そんな顔でか〜たまを見ないで!
「……えぇと、これ……どうしよう?」
私は苦し紛れに、ユニクスとアリンの二人へと話しを振った。
次の瞬間、ユニクスが『フイッ!』っと視線を逸らして来た。
よし、後で爆破してやろう。
他方のアリンは、依然として冷ややかな表情を変えずに口を開いて来る。
「か〜たま。このおにーさんの言ってう事が正しいお? キータ国は民主国家だかりゃ、基本的人権を尊重するんだお? そんな国で宗教上の理由からパインさんを拉致したら……法廷で負けるお? パインさんがキータ国民ではないと言う証明を出さないと行けないけど、パインさんはチアキの地下迷宮で寝ていたと言う根拠も証拠もありゅから……キータ国民であると裁判官が認めてしまうかもだお? そしたら、基本的人権の尊重が遵守されて……か〜たまは誘拐犯扱いだお……場合によっては不法入国者として処罰されるお? トウキ帝国からキータ国の場合は、ビザなしで行けうけど、入国手続きとパスポートは欲しいお? だから、密入国者が国内の女性を拉致した疑いで逮捕されてしまうお……あ、今ならもれなくカルト信者のオマケまで付いて来るんだお?」
アリンに現実を突き付けられてしまった。
三歳児の癖して、恐ろしく頭の回る子だった。
私的には、そんなアリンちゃんを見たくはなかった!
可愛いアリンちゃんであって欲しかったと言うのに……何故、何故にそんな台詞を抑揚の無い冷淡な口調で言える子に育ってしまったと言うのっ⁉︎
「………」
もう私は無言だ。
愛する娘にまで裏切られてしまった気分だ。
実際に言っている事も間違っていないから困りものだ。
ああ! 無駄に頭が良い三歳の娘に、私の涙が止まらないぃぃっっ!
「あのぅ……ココナッツさん? これ、どー見ても……私達が悪者になるパターンですよ? 今回の所は帰りませんかねぇ?」
しばらく後……周囲に妙な沈黙が訪れたところで、私は引き攣つり笑いのまま、後ろにいるココナッツ様へと声を向けると、
「帰ってくれるんであれば、それで構いませんよ?……こっちも、無駄に大事にしたくはありませんしねぇ」
私の言葉を耳にしたミナトが、実に融和的な笑みを作りながらも言って来た。
……ぐむぅ。
なんて奴だ。
しっかりとタイミング的にも的確な台詞だ。
恐らく、ミナトとしては私達を追い払う事が出来たのなら、それで良いのだろう。
事を荒立てたくないと言う部分も加味した上で、しっかりと冷静な言葉を用意している……そんな風に見えてならない。
だからと言うのも変な話しではあるのだが、
「どうしたんだろう、今日のお兄ちゃん……凄く、頭が良い人に見える」
リオが物凄く驚いた顔をしながらも、ボソッ……と答えていた。
どうしてこんな台詞を言っているのかは知らない。
ただ、私感として……確かに冴えない面構えをしているミナトが、かなり的確な台詞を口にしている姿は、確かにちょっと驚きを禁じ得ない部分もある。
まぁ、ミナトと言う人物を見るのはこれが初めての事だから、私としては普通に頼れる男……って言う感覚の方が強かったりもするんだがな?
更に、別の角度に視点を移すと、
「……何でしょうね、この感覚」
ミナトの背中に隠れていたパインが、妙にドキドキした顔になりながらも、独りごちていた。
……ふぅむ。
なんと言うか、これは……特殊な感情を抱いている様な?
実際に当たっているのかまでは定かではないのだが、飽くまでも個人的な視点で物を言うのなら、これは明らかに恋情の様な物が動いている様に見えるな?
けれど、その反面……
「これが……昔の私が『最も大切にしていた感情』だと言うのですか……?」
……と、こんな感じの台詞を半信半疑状態で答えるパインの姿があった。
実際問題、本当に分かってない可能性がある。
何故なら、シズ1000の話しを耳にする限り、女神・パインの恋愛感情は封印されていたからだ。
けれど、今のパインがミナトへと見せている姿は、明らかに恋情に見える。
……むぅ。
これはどう言う事なのだろうな?
「……パイン。私の事ぐらいは覚えているよね? ココナッツよ?」
地味に不明瞭な現象が起こっていた……その時、ココナッツ様がやや強引に口を開いて来た。
ニッコリ笑顔ではあったが……なんか、普段よりも凄味を感じる語気が込められていた。
……こっちもこっちで、何やら意図的な物を感じる。
策略と形容すべきかどうかは分からないが、だ?




