女神と剣聖と勇者様【17】
リオがキュッ! っと口を閉じたまま動かさない状態が続く中、パインはスゥ……と動き出す。
すぐ直前に居たリオを無視するかの様に背中を通り過ぎ、私達の真ん前へとやって来たのだ。
「………あっ」
リオの口から、無意識に声が漏れた。
恐らく、パインがリオを完全に無視する形で通り過ぎた態度を見て、リオなりに何かを察したのだろう。
当然、私には分からない。
分かり様がない。
けれど、確実に分かる事が一つだけある。
この時点で、リオはパインからの信用を失ったのだ。
だからだろう。
無意識に声を漏らしたリオは、切なそうな顔を一瞬だけ作っていた。
本当に、この二人には何があったと言うのだろう?
全く関係のない第三者である為、余り込み入った話しをするのは野暮ではあるのだが、可能であれば二人の中に存在する心の溝を多少なりとも緩和する事が出来るのであれば、喜んで協力したい所ではあるのだが……。
二人を拗らせている張本人が、私達である可能性が高いだけに、下手な事は言えないんだけどなっ!
私的にも、複雑な心境になってしまう状況が続いている中、
「……んと、何かありました?」
男性の声が、自宅の中から転がって来た。
程なくして、十代後半程度の少年が、玄関から私達の元へと歩いて来る。
ふむふむ。
至って平凡な少年だな。
面構えからしても、そこらの道端でゴロゴロしてそうなまでに平凡な顔だ。
しかし、何だろうな?
こうぅ……妙に親近感の様な物を感じてしまう。
どうしてそうなってしまうのかは、私にも良く分かっていない。
ともすれば、銀髪の髪をしているからだろうか?
それ以外は、そこまで類似している物もない。
特に顔は平凡だし。
私の様な美少女とは、類似点などあろう筈もない。
「ミナトさん!」
玄関からやって来た少年の姿を見るや否や、パインは少年へと駆け寄ってみせた。
ふぅむ、名前はミナトと言うのか?
これも、三文字だし……きっと覚えられるだろう!
そう、きっと!
「……?」
駆け寄って来たパインを見て、ミナトは小首を傾げていた。
きっと、何が起こっているのか分からないのだろう。
「ミナトさん! あいつらは危険な存在です! パインさんを、この家から連れ出そうとする誘拐魔なのです!」
……おいおい。
ミナトの近くに駆け寄って来たパインは、間もなく私達をビシッと指差しては、突拍子もない台詞を叫びまくって来た。
実質『拘束する!』なんて台詞を吐いてはいたので、全く根も歯もない言葉ではないんだけど……けれど、最初から危害を加えるつもりはなかったからな?
「えぇと……申し訳ないのですが、ちょっとここで起こっている話を、掻かい摘つんで話して貰っても良いですか?」
地味に怪訝な顔になって言うミナト。
そりゃそうだろう。
いきなり『誘拐魔!』なんて剣呑な台詞が出て来たのだ……これが逆の立場であれば、私だって同じ顔になってしまうだろう。
それだけに、私はソッコーで『違います!』って感じの台詞を口にしようとしていたのだが……その時、近くにいたココナッツ様がニッコリ笑顔のまま、控えの請求書をさりげなぁ〜く私に見せて来た。
………。
……ああ、はいはいっ!
分かっておりますよ!
「掻い摘んで話すまでもありませんね? パインをこちらに引き渡してくれれば、それで構いません」
私は開き直ってミナトに答えていた!
堂々と笑顔で言い切っていた!
もうね? 明らかにこっちが悪者だったよ!
正直、心の中は半ベソなのですがっ⁉︎
尤も? さっきも述べた通り、心は半ベソであったとしても、顔では笑っている。
私の方に落ち度は一切ありませんよ? と、顔で断言しているかの様な態度をしっかり作っていたのだ。
仮に良心が痛む様なシチュエーションであったとしても、顔にその心理状態が浮き彫りになってしまったのならば、その時点で敗北を喫した様な物だ。
これでも会長として、色々な修羅場を掻い潜って来ているからな?
多少、無理な話しであろうと、こっちは何も悪くない! って感じの態度を見せておかなければ、自分達の主張を押し通す事は出来ないのだ!
それだけに、毅然とした態度で臨んだ私がいたせいか? ミナトは少し困った顔になってから私へと声を吐き出した。
「えぇ……と、もしかしてお巡りさんの関係者でした? もしそうであれば……まぁ、申し訳ありません。事情聴取とか必要なんでしょうか? そうであれば……せめて、パインはどんな事をしでかしたんですか? また何かをやらかしているとは思うのですが、俺の精神衛生上厳しいんで、参考までに教えて欲しいのですが……?」
答えたミナトは、ビックリする程の低姿勢で私に言って来た。
流石にここまで腰を低くして来るのは予想外だったぞ!




