女神と剣聖と勇者様【14】
ど、どうしてココナッツ様が?
私は思わず呆然としてしまった。
だってそうだろう?
もし、目的地の場所にココナッツ様が居たとするのなら、最初から私達と一緒に来れば良いだけの話しじゃないか?
「ちゃんと素直に、パインが住んでいる悪鬼の屋代に来てくれたのですね? 良かった」
唖然と佇む私を前に、ココナッツ様は満面の笑みでニッコリと答える。
見れば、近くにいたユニクスもポカンとなっていた。
アリンも似た様な物だったが、
「ココナッツしゃま? もしかして、アリン達を試していましゅか?」
地味に怪訝な顔になってココナッツ様へと尋ねる。
三歳児とは思えない機転の速さだ!
アリンに言われて私はハッとなったよ。
そうか……つまるに、私達がちゃんと任意でパインの元へと向かうかどうか、試していたのかっ!
「試してはいませんよ、アリンちゃん? 私は私で、あなた達の観光を『より良くする為に』色々と用意する為の根回しをしていただけですから」
ココナッツ様は満面の笑みでアリンへと答えた。
……これは、もしや……更なる請求書を私へと叩き付ける前準備だったのでは……?
……くっ!
これは甘い罠だ!
分かっている!……分かっているが……しかし、私は思う!
もう、この時点でココナッツ様の請求額を払いたくないっ!
簡素に言うのなら、ここでココナッツ様が用意しているのだろうお持て成しを受け様が受けまいが、既に請求書を払いたくないと決めた以上、快く受けてしまった方が良い!
だって、ちゃんと引き受けてしまえば良いだけの話しなんだもんっ!
酒代を、最初から払う気なんてないんだもんっっ!
しかしながら、私は思ったのだ。
この……ココナッツと言う女神は、実に狡猾である……と。
この調子で、色々と私達へと支払い金額を増幅させて行けば、着実に私達を自分の手駒として使用する事が出来る!
……くそ……してやられた!
まさか、女神がこんな方法で、私達を従わせて来るなんて思わなかった!
つか、思うかぁぁぁぁぁっっ!
……はぁはぁ。
地味に興奮してしまった。
ともかく、本題に戻ろうか。
「アリンちゃんが楽しめる様な物も、あれこれ準備して来たから、楽しみに待っていて欲しいわ?」
「そうなんだお? やったー! 流石はココナッツしゃまっ! 素敵でしゅっ!」
キラキラオーラを放ちながら微笑みを絶やす事なく答えたココナッツ様の言葉に、アリンもまた幸せ全開オーラを全面に押し出して叫んでいた。
……この子は。
きっと、ココナッツ様のやっている事が『実は有料になるかも知れない』と言う事実がある事を、アリンは知っていないからこそ、その様な態度を取る事が出来るのだろう。
私だって知らなかったら、単純に純粋に良い人だなぁ……と、思っているに違いないのだから。
しかし私は知ってしまったのだ!
実は、結構腹黒い性質を持っている女神様であると言う真実にっ!
同時に私は思った!
ここで時間稼ぎをしよう……そうと、私なりに考えていた思考を、ココナッツ様は察知したのではないのか?……と!
そして、察知と同時に素早く瞬間移動し、先回りする形でこっちへとやって来たのではないのだろうか?
少し勘繰り過ぎな様な気がしないでもないのだが……しかしながら、間違いなく言える事は、ココナッツ様に気を許しては行けないと言う事実が存在している部分だ!
かなり身構えた思考を持っている程度で、ちょうど良い性質の持ち主である。
ここはともかく、油断しないで置こうか。
何処で突き出された請求書の支払いを命じられて来るか、分からないからなっ!
何にせよ、ココナッツ様が居ても居なくても、やる事は変わらないだろう。
時間稼ぎ云々は抜きにしても、いきなりこっちから戦闘を仕掛けるわけには行かないのだから。
もちろん、パインが一方的に高圧的な態度を取って来た結果、こちらも仕掛けなければならない……と言うシチュエーションが生まれたのであれば、その限りではないのだが。
それだって、万が一にすら起こらないと思っている。
……これらを考慮するのであれば、どっちに転んでも今回は単なる顔見せで終わる事は明白であろう!
うむ! 大丈夫だ!
よし、それでは行こうかっ!
……思い、私は目的の場所である自宅の前に立った。
ふぅむぅ……。
なんと言うか……ボロイな?
ここに来て思ったのだが、凡そ女神様が住んでいる様な自宅には見えない。
なんて言うか……恐ろしく貧相と言うか、なんと言うか……?
一言で言うのなら荒屋だな?
こんな所に、女神様が住んでいると言われても、あんまり実感が湧かない。
少なからず、ココナッツ様が住んでいた豪邸とは雲泥の差だ。
ともすれば、まだ目覚めたばかりで、周囲から女神と認知されていないが故に、この様な貧乏世帯にいるのかも知れない。
まぁ、実際の所は知らないのだが。




