女神と剣聖と勇者様【12】
「……で? 結局、パインさんの熱意? だったか?……ともかく、熱い要望をりんごは取り入れたんだろ? それで、今がある? これで当たっているか?」
「そうです……だからこそ、私はパインが再び『破滅の女神』になる事を恐れているのです……何故なら、パインは『もう一度アダムに逢いたい』と願ったからです!」
「……は?」
声高に叫ぶココナッツ様の言葉に、ういういさんはポカンとなった。
その近くに居た私も以下同文。
いや、だって……それはおかしいだろ?
アダムは……神話レベルの大昔に死んでるんじゃなかったのか?
そこまで大昔の存在に対して『もう一度逢いたい』だと?
どうやって逢うつもりをしているんだろうか?
……ふと、私なりに疑念を抱く事になるのだが、この答えはココナッツ様の口からアッサリ出て来る事になった。
「アダムが転生したのです」
「……ああ、そう言うオチかよ」
ココナッツ様の言葉に、ういういさんはソッコーで納得していた。
実にシンプルな答えだった。
そして、密かに私も納得していた。
なんて事はない。
言うなれば、私もまた転生者の一人と形容しても、何ら差し支えのない存在であったからだ。
もっと言うのであれば、この世界に限って述べると、死者の魂は基本的に三千世界へと旅立つとされている。
だからして、いまわの時を迎えている者に対して『良い三千世界の旅を』と言う言葉を使う。
余談だが、死んでしまった相手に対しても用いられる台詞でもあるな?
ここからも分かる様に、人は死ぬと三千世界の彼方へと向かい……やがて、三千世界の何処かで再び生を受ける事になる。
ここらを考慮するのであれば、アダムが長い年月を経てこの世界へと再び生を受けていても、なんらおかしな話しではなかったのだ。
……ふむぅ。
なるほど……そんなカラクリが隠されていたのか。
つまるに、パインさんはただ単純に罰としてチアキの地下迷宮へと寝かされていた『訳ではない』と言う事だ。
いずれ再び転生して来るだろうアダムと出会う為……再会の時まで、チアキの地下迷宮へと自らその身を投じていた事になる。
ある意味、凄い愛だ。
そして、健気過ぎる。
大好きなアダムと再び逢う為に、4500年もの長い永い眠りを選んだのだから。
人間であったのなら気が遠くなる様な行為とも言える。
或いは、眠っていれば一瞬の出来事なのかも知れないが……私はごめんだね?
だって、考えてもみよう?
4500年だぞ?
そんなに時間が経過してしまったのなら、同じ地域であったとしても、完全に別世界となっているに決まってるじゃないか?
当然、知り合いなんて居る筈もないし……転生したアダムと出会う事が出来ても、しっかりと添い遂げる確証だってないんだ。
もう、大きな大きな賭けと言っても良いだろう。
これら諸々を踏まえるのなら、パインさんは恐ろしく大胆な行為をした物だ。
同時に、心底アダムを愛していたのだろう。
極めて過酷な顛末にさえなり得るだろうリスクを背負っても尚、そこに希望を見出す事が出来たのは……1にも2にも、アダムへの愛があったから。
彼女が持っている、底なしの愛情があったから可能にしていたのだから。
……くぅ。
なんて事だ。
聞けば聞くだけ、パインさんと言う女神が不憫過ぎる!
出来る事なら、私はパインさんの味方でありたかった。
……そう、出来る事なら!
しかし、もう……遅い……遅いんだよ。
私は、取り返しの付かない事をしてしまったのだから。
思い、私は右手に握っている請求書を軽く見据える。
こんな物を送り付けられさえしなければ……くそぅ。
だけど、パインさん……あなたの愛は本物だ!
なんの力にもなって上げる事は出来ない……否、それ所か私はあなたに対して大きな障害にさえなり得る立場になってしまっている。
けれど、そんな愚かな私を許して欲しい。
だって……だって……酒代が半端無いんだものっっ!
心の中で絶叫する私がいた!
大酒飲みの自分に、ここまでの憎しみを抱いた事はないぞ!
この教訓を胸に、これからは禁酒してやる!
そうだ、やっぱり酒は行けない! 身を滅ぼす!
そうだ……だから、禁酒は……禁酒はっ!
明日から頑張るっっ!
そうと心に秘め、私は取り敢えず今日の所は喉ごし爽やかなエールとか飲んで置こうかなぁ〜? と、考えるのであった!
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何とも気乗りしない話しではあるのだが、乗りかかった船である以上、請求書の酒代を支払いたくない……もとい、キッチリとココナッツ様の願いを聞き入れる為、翌日から早速行動に移す事になった。




