女神と剣聖と勇者様【9】
憎しみの対象は、自分自身……そして、りんごだ。
アダムの心をしっかりと理解してあげれなかった自分に強い自責と言う名の憎悪を抱き……それと同じ位、りんごへと強い憤りを抱いた。
結局の所、りんごが片方だけと言う様な事さえ言わなければ、アダムは死ななかった……その事実がある以上、イヴはどうしてもりんごを許す事が出来なかったのだろう。
かくして……愛が強いが故に、深すぎたが故に、激しい憎悪を抱いたイヴにより、破滅の女神は降臨する事になったのだ。
………。
悲し過ぎる話しだな……。
強い愛情があったが故に、その愛が底なしにあったからこそ起こってしまった悲劇。
強く激しく……履ける事を知らない負の感情により、長い時間を掛けて構築された肥沃な大地が一瞬にして死の大地へと逆戻りしてしまったそうだ。
その後、りんごともう一人のイヴ……後の女神ココナッツによって破滅の女神は封印され、キータの中心市街地にあるチアキの迷宮にて、深い眠りに就いた。
そして、時は流れに流れて……現代。
破滅の女神は、偶発的にやって来た冒険者の手によって、その長い眠りから目覚めて行くのだ。
……な、なるほど。
これは、私が思っていた以上にヘヴィーな話しだな。
ポイントとして、破滅の女神は激しい怒りを覚えた事で、全てを破壊し尽くす程の激しい憎悪を、心の中に生み出してしまった……訳なんだが。
……うーん。
これは、過去にあった話しであって、現在も同じ事になるとは限らないんじゃないのだろうか?
少なからず、私が感じたパインさんとか言う、ココナッツ様と瓜二つの女神を見る限り、とてもそうは思えない。
悪辣と言う単語から、ちょうど真逆に位置しているかの様な?……そんな、潔白と言えるまでに鮮やかな性質の持ち主にしか見えなかった。
けれど、その反面……ココナッツ様が恐れている事だけは分かる。
パッとしか感じてなかったけど……パインさんの中に存在しているだろうエナジー量は、半端ない膨大さを誇っていた。
本当にパッとでしかなく、全てをしっかりと見据えた上で言っている訳じゃないんだが……あれは、相当な実力の持ち主だ。
おおよそ人間の力とは大きく異なる、それこそ別格のエナジーを持っていた。
これらを加味するのであれば、なんらかの事情から再び破滅の女神としてこの世界へと降臨する時が来てしまえば……キータの国が滅んでしまう危険性は高いだろう。
……ぐむぅ。
私は考えてしまう。
清らかな心を持つ、愛情深い女神である事は間違いないと言うのに……かつて暴走してしまったと言う理由で、簡単に討伐対象にしても良い物なのか?……と。
しかしながら、確かにその能力は極大で。
生きる災厄と述べても過言ではない力は、確かに存在していて。
ここに『いつ暴発してもおかしくない』と言う条件をつけ加えるのであれば……爆発するかも知れない核弾頭を、街の中に置いているのと大差ない条件になっている。
もちろん、見過ごす訳には行かない。
キータの国民を守る為を思えば、パインさんを今すぐにでも封印ないし討伐する必要性はあるだろう。
だけど……パインさん本人は、間違いなく深い愛情を持つ女性だ。
もっと言えば……もう、既に彼女は罪を償っていると思うんだよ。
シズ1000の話しに嘘がないのであれば、彼女は軽く4500年はチアキの地下迷宮に幽閉され、長い永い眠りにその身を寄せていた。
かつての彼女が行った事は、簡単に許される事ではないし、それは私も理解する事が出来るのだが……その罰として、彼女は禁錮4500年の刑に処されたも同然の状態にあった。
……もう、許してあげても良いのではなかろうか?
私は思う。
今はそっとして上げた方が良いのではないか?……と。
ただ……この言葉を、私は決して無責任に述べている訳ではない。
もし、彼女が破滅の女神になった時……その暁には、私が彼女を殺す。
故に、今回の所は素直に帰ろう。
シズ1000の話しを耳にし、私は颯爽と帰り支度の算段を、あれこれ考えていた。
……と、その辺りで、ニコニコ笑顔のココナッツ様が、私へとさりげなぁ〜く一枚の紙を渡して来た。
内容は……請求書だった。
請求内容は、私とアリンに対しての御褒美として用意した時に掛かった費用である。
その内容を見て、私の額から滝の様な汗が流れて来た。
……え? いや……これは、流石に嘘でしょ?
だって、ほら? かるぅ〜く高級な馬車が買えるぞ? この金額!
一応、明細もあったので、中を確認して見る……うぁ、なにこれ? アリンが買って貰った人形って、全部プレミア品なの? 単価の桁が全部万単位なのですがっ⁉︎




