女神と剣聖と勇者様【6】
ちょっと空気を読んだういういさんは、間もなく話しのベクトルを意図的に変えようと、周囲にいるメンバーを軽く見渡した後、一番近くに居た私へと声を向ける。
「……で? どうしてリダさん達が、こんなキータくんだりまでやって来てるんだ?」
ういういさんは不思議そうだった。
私からすれば、それはお互い様……と言いたい。
けれど、ういういさんの言いたい事は理解出来る。
世界を放浪しているういういさんであるのならば、ここには旅の途中で立ち寄った場所……で、全ての説明が付いてしまうかも知れないが、私達に関して言うのなら、間違いなく説明不十分だ。
普段からトウキで勉学が励んでいる身なのだからな。
思った私は、ういういさんへと答えた。
まだ、明確な内容をココナッツ様から聞いていた訳ではなかったのだが……私の予測に間違いがないのであれば、これで当たっている。
「破滅の女神を封印……または討伐しに来た」
「……はい?」
ういういさんは惚けた。
……?
何だろう?……話しが噛み合わない。
もしかして、既に破滅の女神が、ういういさんの記憶を消し去った後だったのだろうか?
「破滅の女神……ってのは何だ? このキータには、そんな物騒な女神がいるってのか?」
「……それは惚けているのか? ういういさんがさっきまで一緒にいた、そこのココナッツ様と同じ顔の女神がいたろ? 確かパインさんだったか?」
何を言っているのかサッパリ分からない……と言わんばかりだったういういさんへ、私はやや驚く様な仕草を見せながら声を返して行く。
これは、ちょっとしたカマ掛けだ。
記憶が消されているか、いないのか?
その真意を確かめたかったのだ。
ここで記憶を消されていたのなら、ういういさんはナチュラルに驚くだろう。
逆に、記憶を消されておらず、何らかの事情から惚ける態度を見せて居たのであれば、私の言葉に多少なりとも動揺するんじゃないのか? そう思っての行為だ。
果たして。
「……なんだと?」
ういういさんはナチュラルに驚いていた。
………。
これは、マジで記憶を消された後の可能性が高いな。
ココナッツ様の言葉に間違いがないのであれば、破滅の女神の正体に気付いたういういさんの記憶を消しにやって来た……と言っていた。
つまり、既に知っている筈なんだ。
それなのに、ういういさんの態度を見る限り、全く知らないと言う態度を取っている。
嘘を吐いているにしては、ちょいとばかりナチュラルだ……自然過ぎる。
故に、私はういういさんの記憶が既に消失している可能性を疑ったのだが、
「う〜っ!」
そこで、シズ1000が声を吐き出して来た。
基本的には、ういういさんの頭上に自分専用の座布団を敷き、その上にちょこんと座っては、呑気にお茶を飲んでいる小型の魔導人形がいるのだが……この小人みたいなのが、ういういさんの相棒でもあるシズ1000だ。
外見は、ういういさんの母親であるシズをこじんまりとした体躯をしている。
ちなみに、シズの方は最近に登場したから分かるだろう。
剣聖杯で解説をしていた、あのビミョーに天然が入ったお団子の女だ。
普段から、何を考えているのかサッパリ分からない謎の行動を見せるお団子頭なのだが、あんな形でも世界最強の剣士にして、第五十代目・剣聖でもあったりする。
余談だが、ういういさんは五十一代目だ。
さて、そろそろ話しを戻そうか。
シズ1000は、まもなくフォログラフィーの様な光を放つと、空中に文字の様な物を浮かべた。
文字の内容は、次の通りだ。
『リダさんの言った事は正しい。彼女はその昔……大きな愛を持ってしまったが故に、異性に対する愛情を『封印する羽目』になった』
……ふむ。
どうやら、シズ1000は完璧に分かっている模様だな?
「……?」
一方のういういさんは、全く話しが見えないと言わんばかりだ。
やはり記憶を失っている可能性が高いな。
しかしながら、パインさんだったか? ともかく、破滅の女神も詰めが甘かった模様だ。
ういういさんには、シズ1000と言う特殊な情報源が存在している事に気付けなかったのだから。
あるいは、その事実に気付いていたのかも知れないが……私達の登場により、シズ1000まで手が回らなかったのかも知れない。
どちらにせよ、シズ1000の記憶が失われて居ないと言う事は、ギリギリセーフと見て良さそうだな?
「話しがサッパリ見えないぞ?」
……まぁ、ういういさんは完全にダメだったみたいだが。
けれど、私的に言うのなら、むしろシズ1000さえ覚えているのなら、なんの問題もないと思っている。
だって、頭の上で行くのなら、ういういさんよりシズ1000の方が格段に良いからな!
言ったら殺されるから、口には出さないけどっ!




