女神と剣聖と勇者様【5】
ココナッツ様の話しを聞く限り、破滅の女神は正体を知られた記憶を消し、その代わりに自分の都合に合わせた記憶をういういへと植え付け、強引に自分の味方へと引き込もうとしていた。
そうであるのなら、今の様な台詞になるのだろうか?
もっと違う……こうぅ……捨て台詞にも近い様な言葉になったりするんじゃないのか?
けれど、ココナッツ様そっくりの女性は、こう答えたんだ。
この時が来るのを待った……それだけ、と。
何故、彼女はこの時が来る事を待ったのだろう?
破滅の時が来るのを待っていたと言うのか?
もしそうであるのなら、彼女は確かに危険な女神様だ。
まさに『破滅の女神』と称されるべき、凶悪な化物と形容出来るだろう。
けれど、私は思った。
厳密に言うのなら、私は感じた。
彼女には守護霊が存在していた。
女神様だと言うのに、守護霊がちゃんといる時点で驚きではあるのだが……まぁ、この世界には神格を得た人間が、そのまま女神様へと昇格する時が稀に存在しているので、元々が人間であった場合は女神でも守護霊を持っていたとしても、特段不思議と言う程でもない。
問題は、次だ。
彼女が持ってる守護霊の色だ。
鮮やかな……鮮やか過ぎるまでの……白だったんだ。
これが何を意味するのか?
まぁ、守護霊に関しては、しばらく出て来なかったから、忘れてしまっている人も多いだろうし、ここで簡素に説明して置く。
人間であるのなら、確実に持っている守護霊には、その人間の性質をある程度まで見抜く方法がある。
この守護霊が白くなれば、その人間の持っている性質ないし性格は驚く程に良好な存在だ。
簡素に言うのなら、とっても性格が良くて正直者であり、人情味に厚い上に、底なしの愛情まで持っている様な存在と言う事になる。
逆に守護霊が黒くなれば、その人間の持っている性質は劣悪となる。
率直に言うと、陰湿かつ陰惨であり、冷徹非道でありながら底なしの欲望を持つ、醜悪な性質のお手本みたいな存在……と、こうなる訳だ。
仮に世界を破滅させる事を心から願う様な、極悪非道な女神であったとするのであれば……それはそれは、ダークマターに匹敵する程の、暗黒物質チックな守護霊になってなければ行けない。
所がどうだろう?
ココナッツ様ソックリだった彼女の持つ守護霊は……見ている私の心が洗われてしまいそうなまでに真っ白だ。
一点の曇りすら見当たらない……まさに明鏡止水の極みと形容出来よう、素晴らしい守護霊であったのだ。
……故に、私は思わず困惑してしまった。
逃げる様にその場から離れてしまった彼女を捕まえる事なく、そのまま見逃してしまったのは……彼女の守護霊が、余りにも美しい……美し過ぎたからだ。
私が知っている限り……守護霊は嘘を吐かない。
美辞麗句をどんなに並べ立てたとしても、守護霊を見れば、その人間の性質を一発で見抜く事が出来る。
それだけ、守護霊は的確にハッキリと私に答えを提示する明確な存在であり、これまでの経験で、守護霊の色を見て見誤った事など一度すらない。
………。
マジな話し、これはどう言う事なんだろう?
私は悩みのツボにハマりそうになったが……間もなくハッとなる。
今は悩むよりも先にやらなければならない事があった!
思い、私はういういさんへと顔を向け、
「大丈夫だったかっ⁉︎」
素早く声を向けた。
見る限り、ういういさんに外傷はない。
記憶も……恐らくあるんじゃないのかな?
ここに関しては外見で判断出来る物ではない為、そこまでの自信はないのだが。
「……? パインさんが、二人?」
少し間を置いて、ういういさんはポカンとした顔になって言う。
視線の先にいたのは、ココナッツ様だ。
うん、そうなるよな?
私もここに来て初めて知った事なんだが……さっきの金髪女性……パインさんと言うのかな? ともかく、その金髪女性とココナッツ様は思い切り似ていた。
もはや同一人物かドッペルゲンガーなんじゃ?……と、嘯きたいレベルで酷似していた。
「あれと一緒にされるのは不本意ですが、言いたい事は分かります。分かりますけど、違います。私の名前は……ココナッツと言います。以後、お見知り置きを」
ココナッツ様は地味にムスッ! っとした顔になって、ういういさんへと返答していた。
普段から微笑みの耐えないココナッツ様が、あからさまに嫌悪感を露わにしてた事には、ちょっと驚いたな。
「ココナッツさんだな? 分かった」
他方のういういさんは、素直に『別の人なのかぁ〜』って感じの態度を取ってから頷きを返す。
なんて言うか露骨に嫌がるココナッツ様を見て、空気を読んだのだろう。
少なからず、私でもういういさんと同じ様な態度を示すだろう。
本当……どうしてなのか知らないが、それだけココナッツ様が見せた嫌悪感は、地味に根深い何かを抱かずには居られなかったんだ。




