女神と剣聖と勇者様【4】
「おい、ユニクス! 起きろ!」
「……ふぁい?……リダ様……ごきげんよう?」
ああ、ダメだコイツ。
元から私的にはポンコツ女だったが、現状のユニクスは酔いが完全に覚めて居ない事もあって、完全にダメなポンコツ女に成り下がっている。
……くそ、こんなの単なるお荷物じゃないか!
そう思う私ではあるのだが、ここでユニクス抜きと言う環境を作る訳には行かない。
ここはしっかり『勇者ユニクスの活躍があって解決しました!』と言う形を、意地でも作って貰わないと、私が困るんだ!
思った私は、
スパパパパァァンッッッ!
物凄い勢いで、ユニクスに往復ビンタを食らわす。
これで、少しは酔いも覚めるだろう。
「……はっ! こ、ここはっ⁉︎ って、言うか……頬が物凄く痛いっ!」
「ここはココナッツ様の自宅だ! んで、お前は酔い潰れて寝てたんだよ! そして、頬が痛いのは気にするなっ!」
大方の予想通り、しっかりと意識を回復させたユニクスが居た為、口早に現状についての説明をしてみせる。
「そ、そうですか……ああ、思い出しました。確か私はリダ様と飲み比べをして……ん? でも、待って下さい? 飲み比べをして酔い潰れた所までは納得出来るのですが、それでどうしてホッペがヒリヒリするのです? しかも尋常ではなく痛いんですが? これ、おかしくありませんかっ⁉︎」
「細かい事は気にするな! そんな事よりも、今は大変な事が起こっているんだ!」
「……へ? 大変な事? それは私の頬が、あたかも往復ビンタを秒速百連発で喰らったかの様な痛みよりも重要な話しなのですか?」
「もちろんそうだ!」
私はスパッと言い切った!
確かに、今のユニクスはちょっと……その、強く叩き過ぎたのか? まるでおたふく風邪でも患ってしまったかの様な惨状になって居たりもするけど……そこは治療魔法を掛けてやるから忘れておけ!
ともかく、
「急げ、ユニクス!」
私は遮二無二叫び、
治療魔法!
序でにユニクスへと治療魔法を発動させてから、部屋の外にいるだろうココナッツ様とアリンの元へと向かった。
「ユニクスを連れて来ました!」
「ありがとうございます、リダさん。それでは、参りますよ? 私に掴まって下さい」
ユニクスの姿を見て間も無く、ココナッツ様は口を素早く動かしてから両手を私達へと差し出した。
きっと手を握れと言う事なのだろう。
言うが早いが、私達は素早くココナッツ様の手に掴まった。
……と、次の瞬間、視界が一瞬で変化する。
恐らく、ここがういういさんの止まっているホテルなんだろう。
……ヨシ、行くぞ!
視界が変わったと同時に、私の身体は動いていた。
ここまでやって来たのなら、ういういさんの姿が見えなくても、何処に居るのか直ぐ分かる。
ういういさんクラスのエナジーであるのなら、見誤る事すらないと断言出来る。
他の人間には醸し出す事の出来ない、特殊かつ強靭なエナジーを誇示している為、この近くにういういさんが居ると言うヒントがあるのなら、もはや間違えろと言う方が無理なレベルにまで到達していた。
よって、私はういういさんの持つ特殊なエナジーが居るだろう部屋へと迷う事なく進んで行き、
バァァァンッッ!
これまた躊躇する事なくドアを開けた。
どうやら、鍵は掛かっていなかった模様だ。
私的には施錠されて居なくて良かったと思っている。
だって、絶対に鍵ごと破壊して居たもの。
修理費とかの弁償を請求されずに済んだからな!
「……な、何だっ⁉︎」
ドアを開けて間も無く、その先に飛び込んで来たのは、目を白黒させたういういさんの姿だった。
……いや、まぁ……うん、そうなるだろうね。
私だって、立場が逆だったのなら、間違いなく今のういういさんみたいな態度を取ってしまうだろう。
しかしながら、現状に存在する緊迫した事態を加味するのであれば、私の行為など極めて些末な物に過ぎない。
見れば、そこにはココナッツ様にも似た金髪の女神が、
「……っ⁉︎」
徐に息を呑みながらも、私達をガン見していた。
顔では言っている『完全なる計算外』と。
……ふむ。
ココナッツ様の言う通り、危機一髪だった模様だな。
「ういういさん……一つ、これだけは信じて下さい。私は『この時が来る事を待った……それだけだ』と言う事を……」
ココナッツ様ソックリと言わざる得ない金髪の女性は、そう言い残すと足早に立ち去ってしまった。
……?
どう言う事だ?
どうも……妙だ。
これが捨て台詞にしては、少し不自然だ。
なんと言うか、ココナッツ様が言っていた話しとは……ほんの僅かながらのズレが生じている様な気がしたのだ。




