女神と剣聖と勇者様【3】
私としては、余り受け入れたくない状況が展開されていて……可能であるのなら、部屋中に散乱している人形の全てを全部ここに置いたまま帰りたいと言う気持ちで一杯ではあったのだが、取り敢えず簡単に見つかって良かった……と言う事にして置こう。
別に私がお金を出した訳ではないし……何より、これだけ多くの人形を入手したのなら、しばらく私が地元のオモチャ売り場で困る事もなくなるだろう……多分っ!
なんにせよ、アリンを探す必要性がないのなら、もう心配する要素はない。
……と、こんな事を考えていた、その時であった。
「……っ⁉︎」
ココナッツ様がいきなり顔を顰めて来た。
「……?」
今一つ理由が分からず、私は不思議そうな顔になり、
「どうしたんだお〜? 女神しゃま?」
アリンも軽く小首を捻っていた。
ナチュラルに『女神しゃま』とか言ってるんだな……アリンちゃん。
一体、アリンにどの様な心境の変化があったのか知らないが、確実にココナッツ様からの買収を受けているんじゃないのか?……なんぞと邪推する。
本当に物欲の塊みたいな子になってしまったぞ……オイ。
アリンの未来を考えるのであれば、絶対になんらかの教育的指導をしないと、ロクな大人に育たない……この一件が終わったら、徹底的に道徳と言う物をアリンには叩き込んでやらないと行けないな!
親として、腐りそうな娘の根性を叩き直してやろうと、胸中でのみ思案に暮れていた頃、神妙な顔付きのままココナッツ様は声を吐き出して来た。
「緊急事態です! これから直ちに、この近くにあるホテルへと向かう必要性が発生しました!」
「……は?」
私はポカンとなる。
見れば、アリンも同じ様な顔になっていた。
もちろん、私とアリンからすれば何が起こっているのかサッパリだ。
故に、鳩が豆鉄砲を喰った様な顔を互いに見せていたのだが……ココナッツ様からすれば、一分一秒を争う大事件が発生している模様だ。
果たして、ココナッツ様は答えた。
「破滅の女神が……パインが、剣聖・ういういと接触を測っています……しかも、このまま行けば、ういういは破滅の女神によってその記憶を……失います」
「………っ⁉︎」
ココナッツ様の言葉に、私は息を飲んだ。
記憶が……消される?
マジで何が起こっていると言うのだろう?
記憶を消すとは、穏やかな話しではない。
……てか、だ?
「なんで、ういういさんがここに居るんだよ……?」
ココナッツ様の話しを耳にして、私はちょっと驚く。
ここにやって来たのは、ココナッツ様が言っている『破滅の女神』を撃ち倒し、早々遠くもない未来にやって来るだろう災厄を、前以て発生させない様にするのが目的だ。
この目的に、ういういさんが関与するのかと言われたのなら、当たり前の当然の様に全く関係ない。
しかしながら、そこにういういさんが居る可能性が全くないのかと言われたのなら、これまた話しは結構変わって来る。
ういういさんは、世界を漫遊する様に放浪する、度のトレジャー・ハンターだ。
空に浮かぶ雲の様に、プカプカと悠々自適に世界を放浪している為、たまたまキータ国を旅していたとしても、なんらおかしな話しではなかったのだ。
……とは言え、どうしてこんなバット・タイミングでキータ国に訪れるのかね? あの人は……?
「破滅の女神は、己の正体を剣聖・ういういによって見破られてしまった事により、その記憶を強引に消し去り、自分にとって都合の良い記憶へと改ざんしようとしております……つまり、このまま行けば、場合によっては剣聖・ういういを敵に回す危険性が発生しているのです!」
「……っ!」
ココナッツ様の言葉は、中々に衝撃的だった。
つまり、相手の記憶を意図的に歪曲し、嘘で塗り固められた内容を元にういういさんを味方に引き摺り込もうとしている事になる!
なんてヤツだ……仮にも女神と言う呼称がされているのに、かなりエグい手段に出て来るんだな。
「こうしてはいられません! 一刻も早く剣聖・ういういの元へと向かいます! リダさん、勇者・ユニクスを連れて来て下さい! 早く!」
「え? は、はいっ! 分かりました!」
ココナッツ様の指示を受けて、私はソッコーでユニクスを叩き起こす為、さっきまで自分も寝ていた大広間へと向かった。
素直に言うのなら、ユニクスが居ても居なくても、どちらでも良かったのだが……今回の私はユニクスのお供として来ている身だ。
それに、ユニクス抜きで問題が解決する分かってしまったのなら、私も私で困ってしまう。
だって、面倒事を頼まれる可能性が高くなってしまうに決まっているからなっ!




