女神と剣聖と勇者様【2】
……と、この様な形でユニクスと飲み比べを始めたのだが、ユニクスが思いの外粘って来た。
最初は、ほんの一斗(18リットル)程度でも飲めば、ソッコーで根を上げて眠ってしまうかと思っていたのだが……どうしてどうして、ユニクスもかなり飲める口だった。
結局、そこから一時間程度ばかり続き『これじゃ、埒が開かない! 次からは量を十倍に増やそう』と言う提案を私が言う事になる。
この話しを耳にして、ユニクスは顔を真っ青にしていた。
後から分かった話しなんだが……実は、お銚子に少し細工がされていたらしい。
中に酒が入っていたのは最初の一杯だけで、二杯目以降からは単なる水が入っていた……との事。
本当、姑息な真似をする事に関しては右に出る者が居ないヤツだ!
尤も? 私だったら酒より水を大量に飲む方が苦痛だけどな!
私が知る限り、水入りだったとしても、軽く三升は開けている。
三升って事は、5.4リットル。
普通に考えて、5.4リットルの水を飲むって……どんな罰ゲームだよ? と、思わずには居られない。
途中、顔を青くしてトイレに駆け込んでいたのは、酒の飲み過ぎではなく水の飲み過ぎだったのだろう。
……そんな貴重な経験をするマヌケが、身近な所に居るとは思わなかった。
なんにせよ、上手に根回しをした結果、水を飲んでやり過ごすと言う条件が生まれ……水を飲んでいるだけなら私を上手に酔い潰せる! と踏んでいたのだろう。
よって、私に酒豪チャレンジを申し込んだ模様ではあったが……まぁ、甘いね?
むしろ、水を飲むなんて言う暴挙が、余計に自分を苦しめる羽目になった訳なのだが……この時点での私は、ユニクスがその様なズルをしている事実に気付いてなかった。
よって、次からユニクスは一升瓶・私は一斗缶で飲むと言う事で、ズルが出来なくなってしまうとは思わなかった模様だ。
5リットルも水を飲んで、お腹がテンテコ舞い状態にあった所へ、本物の酒が一升瓶で一気に押し流されると言う……もはや拷問にも近い状態になっていたユニクスは……しかしながら、それでも根性で耐えて見せる。
まぁ、酒飲み初心者のユニクスにしては頑張った方だと思う。
なんと言っても、三升目まで一気に流し込んでいたのだから。
しかしながら、根性でどうにか出来たのもそこまでであった。
続く四升目に来た所で……とうとうユニクスはダウン!
私の勝利が決まった!
真っ赤な顔をしてコテンと床に倒れてしまったユニクスを見て気を良くした私は、そこから勝利を美酒を味わう。
さっきから、一気飲みの連続で、全く味わって飲めなかったからな?
とりま、一斗缶で一気に飲むのをやめた(一升瓶を十本ばかり一斗入る桶で飲むのをやめた)私は、徳利に御猪口でチビチビと飲み始める。
いやぁ、マジでサイコー!
サイコーッッ!
………サイコォ………。
…………
……
…
……と、ここら辺で、私の記憶が途切れている。
うむぅ。
私の記憶が確かであるのなら、大して飲んでいなかった。
精々、十斗程度(180リットル)ではないだろうか?
普段であれば、この程度で意識を失うなんて事はないのだが?…………はて?
それに、なんか、後頭部の辺りがズキズキする気がするんだが……気のせいだろうか?
「……う〜む」
私は両腕を組みながらも考える。
取り敢えず分からない。
分からないから……良し!
「……っと、そんな事より、アリンちゃんを探さないとっ!」
少し悩んだ後、近くにアリンが居ない事実を思い出し、ハッとした顔になって立ち上がる。
完全に撃沈しているユニクスは……寝かせて置こう。
思い、大広間から外に出ようとした所で、ココナッツ様がやって来る。
「あら、リダさん。お目覚めですか? ちょっと強く叩き過ぎたので心配しましたが、その様子なら大丈夫みたいですね?」
「強く叩いた?」
「あ、いえ! こっちの話しです。些末な事なので忘れて下さい」
ココナッツ様は笑いながら答えていた。
……地味に気になる台詞だったが、今はそんな事に構っている場合ではなかったな。
「ウチのアリンを知りませんか?」
「アリンちゃん? ああ、アリンちゃんなら、キータの商店街で『ご褒美のオマケ』として買ったお人形さんで遊んでましたけど……何か?」
「………」
ココナッツ様の言葉を耳にし、私は無言になってしまった。
地味に絶句する。
……よりによって、自分の物欲を女神様に頼んでまで消化させて来るとはっ!
直後、私はココナッツ様にアリンがいる部屋を聞き、足早に向かうと……
「お〜? か〜たま、起きたお〜?」
……そこには、ビックリする位大量のお人形さんがあった。
見事に散乱してた!
しかも、結構、ここ広いよね?
それなのに、いい感じにお人形さんが散らかっていて……まるで地震直後みたいな惨状になってるよね?
これを、自宅に持ち帰る……と?
………。
……ちょっと目眩がして来たんですけど?




