キータ国とドーンテン一族と勇者様【25】
補助魔法が発動された事により、私の能力が爆発的に上昇した。
「それが、あなたの本気なのね?」
ココナッツ様は言う。
表情は、未だ怪訝とした顔だった。
顔では言っていた……この程度ではないでしょう? と。
しかしながら、私は言いたい。
今の私なら、さっきの木偶の某を百体は瞬殺出来る! と!
「今度は、さっき程、甘くはありませんよ? ココナッツ様?」
私は鉄拳をココナッツ様に浴びせる……が、にこやかな笑みのまま、スゥ……っと躱して来た。
……しなやかな身のこなしだ。
隙はなく、動きも最小限。
まるで武芸の申し子でもあるかの様な俊敏かつ柔軟な動きに、私は思わず舌を巻いてしまう。
同時に、血が滾って来るのが自分でも分かった。
やっぱり女神様は格が違うねぇ……。
少し前の私は、単純に面倒だからココナッツ様との対決をなるべく穏便に済ませ様としていたんだけど……気が変わった。
私は、ココナッツ様の胸を借り、自分の力をより高みまで昇華したい!
そう思った直後、
「……やっと、その気になってくれましたか」
にこやかな笑みで言うココナッツ様がいた。
……ふぅむ。
どうやら、ココナッツ様は私がその気になるまで、敢えて待っていた模様だ。
ある意味、女神様らしい慈悲が存在していると言えるだろう。
通常、この手の戦いと言うのは、相手の実力を如何にして封じ込めるか? と言う部分も重要な勝負の駆け引きになるからだ。
しかしココナッツ様は、全くの真逆な事を私に示した。
むしろ、私の全力を敢えて引き出そうとしていたのだから。
参ったな。
やはり、女神様は一味違う。
そして、私の愚劣な浅知恵なんぞ、お見通しと言う事なのだろう。
なら、見せてやらねばなるまい。
会長の力を!
超龍の呼吸法レベル7!
ドドドォォォンッッッ! っと、能力を超急上昇させる。
「……っっ⁉︎」
ココナッツ様の顔色が変わった。
そりゃそうだろう。
場合によっては、この神殿が崩壊するだけのエナジーが、私の体内に集約しているのだからな?
だが、もう知らん!
私は色々と吹っ切れたのだ!
だから、私は言おう!
神殿が爆破されても、修理代は支払わない! とっ!
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォォォンッッッッッ!
右手をココナッツ様に向けた瞬間、私はフレインダムド・レベル7を瞬時に発動……と、同時に周囲が超強烈な爆風で覆い尽くされた。
同時に、レベル7・フレインダムドの余波によって、周囲にいたアリンやユニクスが吹き飛ばされてしまったかも知れないと言う不安にが脳裏に過った。
でも、まぁ……直撃じゃないし。
ユニクスもアリンちゃんも、この程度で死ぬ様な事はないだろう。
良い所、全身真っ黒焦げになって私に文句を言う程度のレベルだ。
アリンに至っては、私に人形を強請って来るかも知れないな?
………うむ。
やっぱり、もう少し考えて行動するんだった。
もうもうと立ち籠る砂煙の中、私は一抹の後悔を抱きつつ……目を疑った。
ココナッツ様は……全くの無傷だった。
頬一つ汚れてないし、着衣の乱れすらなかった。
その辺りで気付く。
中庭の端っこにいたアリンやユニクス達もまた、全くの無傷であった事に、だ。
「……じょーだんだろ?」
正直、想像以上だった。
レベル7・フレインダムドを、私は本気でココナッツ様に叩き込んでいたのだから。
そして、ココナッツ様は全く避ける事なく、そのまま直撃を受けていた。
しかも、かなりの至近距離だ。
そうだと言うのに……ココナッツ様、は全くのノーダメージ。
私の超炎熱爆破魔法を完封して来たのだ!
その上で、ココナッツ様は言う。
とっても晴れやかな笑みで。
「素晴らしい能力ですね、リダさん? 私が知る限り、初代ドーンテンと同等か、それ以上の能力を持っております。歴代最強のドーンテン一族を名乗る事は、間違いなさそうですね」
答えたココナッツ様は、ゆっくりと歩き出す。
中庭から離れる形で歩いていたココナッツ様は、微笑みを絶やす事なく、私へと答えた。
「合格です、リダさん。御褒美にキータの地酒を用意して起きますね?」
……お? マジかっ!
言われてみたら、そんな約束をしていた気がするっ!
果たして、ココナッツ様は答えた。
「ロクゴーと言う純米酒を……」
「えぇぇぇぇっっっ!」
そして、ココナッツ様の言葉が言い終わらない内に私は叫んでしまった!
きっと『ロクゴーと言う純米酒をご存知ですか?』と言いたかったのだろう。
この質問は愚問だっ! 知らない方がおかしいっっ!
少なからず、私からすれば常識レベルのメジャーな酒なのだ。
同時に気付いた。
そうか……ここは、キータだった! と。
え? 最初からそんな事は知ってたんじゃないのか?……って?
そこは素直に頷いておけっ!




