キータ国とドーンテン一族と勇者様【24】
……くそぉっ! ユニクスのアホがぁっ!
「ユニクス……後で、爆破一回な?」
私は地味に腹立たしい気持ちを言霊に変える形でユニクスへとぼやきながらも、渋々と神殿の中庭に向かった。
余談だが、返事はやって来なかった。
軽く振り返ると、何やら『チーンッ!』って言う、サウンド・エフェクトが似合いそうな勢いで、ユニクスが真っ白になっていた。
勇者となって、絶大なる力を手に入れたと言うのに、私の爆破魔法一回如きで、そこまでショックを受ける必要などなかろうに。
だって、私はか弱い女子だから!
「お手柔らかに……」
中庭の中央……ご丁寧に足形がある部分へと立った私は、かなり及び腰になって声を吐き出した。
対面にはココナッツ様が、無駄にやる気を出した状態で立っている。
「ご心配には及びませんよ、リダさん? あなたが例えドーンテンの末裔であったとしても、一切手を抜くつもりはございませんから? 完膚無きまで叩きのめして上げましょう!」
いや、女神様が人間如きに本気を出さないでくれません?
「そうすれば、アリンちゃんも分かる事でしょう! 人の子よりも神である私の方が強いと言う事実を!」
やっぱりアリンの言葉に触発されてたんかいっっ!
……ああ、もう……なんなの? 本気でっ!
三歳児の挑発めいた台詞にアッサリ触発されていた女神様に、私の困惑は隠せない。
つか、こないだのイシュタル様と言い、今回のココナッツ様と言い……女神様ってのはこんなのしか居ないのっ⁉︎
女神様ってのは、もっとこうぅ……尊い存在ではなかったのかっ⁉︎
その他、他にも言ってやりたい事は色々とあったが、私の口が動くよりも早く試験が開始されてしまった為、私は戦闘態勢に入る。
……が、ココナッツ様は動かない。
これはどう言う事だろう?
「……ふふ、どうしましたリダさん? 動かないのですか?」
「え? いや……まぁ、はい」
私はちょっと間の抜けた声を出してしまう。
他方のココナッツ様は、両腕を軽く組んだまま、一歩も歩かない。
……うーん。
どうした物かな? と、考える私がいた頃、
「先に攻撃する権利を与えて上げましょう? これは試験ですしね? リダさんの実力さえ分かれば良いと思っております。ええ、そうです。私が本気を出す必要がないと言う事は知っておりますから」
かなりの余裕をもって答えるココナッツ様が居た。
まぁ、そりゃ女神様だからなぁ……そう言う態度を取る訳で。
決して傲慢と言う訳ではない。
神と人間と言う時点で、大きな大きな……それこそ超えられない巨大な壁が聳え立っているのだ。
そこらを考慮するのであれば、ココナッツ様が私に情けを与えると言う態度を取っても、なんらおかしな話ではない。
……てか、さっき『手は抜きませんから!』って感じの事を言ってなかったか?
………。
ま、そこはヨシとしよう。
私としても、こんな所で無駄なエナジー消費をしたくはない。
強い相手と戦うと言うのは、私の闘争本能が地味に求めて来る、言うなれば欲求の根幹に存在している貪欲な感情ではある……が、しかし。
それでも私は、敢えて言おう!
だからと言って、痛くない訳ではないのだっ!
……よって、私は思ったのだ。
ここは、及第点を取れる程度に動けば良いや、と。
思った私は、
「それでは、失礼して」
シュッ……っと、地を蹴った私は素早くココナッツ様との間合いを埋め、そのままハイキックを入れようと、右足を振り上げた。
ガシィッ!
ココナッツ様は、私のハイキックを右腕で簡単に止めて来る。
「……これで本気とは言いませんよね?」
にこやかに語るココナッツ様。
だけど、目は全然笑ってない。
むしろ、バカにされている様な気持ちなのか? やや苛立っている様にすら思えた。
きっと、私が全然全く本気になっていない事実が、心底つまらないのだろう。
ここにアリンちゃんの台詞が加わって来る。
つまり、
「本気でいらっしゃい? リダさん? そうしないと試験は不合格ですよ?」
うっかりココナッツ様を倒してしまうかも知れないと言う『気遣い』があると勘違いしているのだ。
実際問題、そこは大きく誤解している!
私はただただ、純粋にかったるいだけだ!
女神様とガチ・バトルとか面倒だと思っているだけだ!
……ってのが本音だけど、こんな事を言ったらマジで怒られるので言えない!
くそ……し、仕方ないなぁ……。
「分かりました……」
私は短く頷くと、
超攻撃力上昇魔法レベル99!
超防御力上昇魔法レベル99!
超身体能力上昇魔法レベル99!
補助魔法を発動させた。




