キータ国とドーンテン一族と勇者様【22】
……ったく、アリンと言いユニクスと言い……なんでこんなにも下らない物に、そこまで真剣になれるんだよ?
到底受け入れられない概念に、己の人生を掛けそうな勢いだったユニクスは、気力十二分と言わんばかりの表情をアリアリとみせたまま、中庭の中央へと向かって行く。
アリンの時と同様に『ここに立って下さい』的な足形へと自分の足を置いてみせると……先程と同様に空間から異音の様な物が発生し、空間が歪み始める。
……この感覚が道化師と同じなのが、私的に芳しくない。
なんと言うか、あの当時を思い出すと言うか……私の追憶にあるトラウマを復活させている感じがして、モヤッとした悪感情が胸中に生まれて来るんだよなぁ……。
もちろん、口に出して言うつもりはない。
ココナッツ様が私に意地悪をするつもりで、こんな事をしている訳ではないと言う事は、本人から聞くまでもない事だからな?
空間の歪みと同時に出て来る相手も、道化師と言う訳じゃない。
見る限り、アリンがソッコーで爆破した魔導人形と同じに見える。
「それでは勇者ユニクス……試験を開始して下さい」
空間の歪みから出現した魔導人形が中庭の地面に着地した時、ココナッツ様の掛け声が発せられる。
「………」
ユニクスは何も言わない。
口を閉じたまま真剣な顔になって、眼前にいる魔導人形を軽く見据えていた。
様子見でもしていると言うのか?
特段何もする事なく立っていたユニクスがいた頃、魔導人形は右手を向け、
シュルルルルッッッッ!
その腕を伸ばして来た。
……地味にシュールだ。
右手をユニクスに向ける前までは、普通に五本の指が付いた手をしていたのだが……伸びた瞬間、切先が尖った刃の様な形状へと一瞬で変化していた。
なんて言うか、ミュータントみたいなヤツだな……おい。
冷静に考えれば、こいつは人間ではない。
ココナッツ様が作り出した魔導人形だ。
そう考えるのであれば、人間の常識なんぞ最初からない方が、むしろ当然と言えた。
尖った槍の様な刃は、一直線にユニクスの顔面へと突き進んで行く。
速度も早く……人によっては何をされたか分からない勢いで脳天に魔導人形の右手が突き刺さっていただろう。
もちろん、ユニクスはその限りではなかったのだが。
ユニクスは右手を前に向け、
バシィッッッ!
尖った刃になっていた魔導人形の右手を掴んでみせた。
……ま、ユニクスならこの程度の芸当、楽勝だろう。
勇者としての天啓を受け……尚且つ、勇者の力をイシュタル様から授かっているんだからな?
やたら人間臭い、ウノを愛する神様ではあるが……あんなんでも、世界トップクラスの女神様であり、最高神でもある。
私が知っているあちゃらかな部分さえ目を瞑れば、間違いなく世界を救う勇者を導くだけの絶大なる能力を持った、尊大な女神様なのだ。
……私はあんまりそう思わないけど、世間一般はそうだから複雑さっ!
「……これで終わりか?」
刃と化している魔導人形の右腕を握りしめたまま、ユニクスは答える。
表情は一切変わる事なく……眉根すらピクリともしない。
その瞬間、魔導人形の左手が動いた。
炎熱竜巻魔法!
ゴォォォォォッッッッ!
左手が動いた一瞬後、ユニクスを中心に巨大竜巻が発生する。
……へぇ。
あの魔導人形は、魔法も使えるのか。
威力も中々の物だ。
直撃を受けたのなら、そこらに居る冒険者であるのならば一溜りもなかったであろう。
……ま、これもさ?
勇者・ユニクスは、その限りではないんだけどな?
「………」
中庭に吹き荒れる旋風と同時に燃え盛る火炎が途中で加算され……最終的には巨大炎を纏った竜巻の渦中にいたユニクスは、無言のままその場に立ち尽くしていた。
……しばらくして。
「女神・ココナッツよ。あなたは私を馬鹿にしているのですか?」
炎風の中から一歩も進む事なく、無傷のまま立っていたユニクスは、不服をアリアリと顔に出した状態のまま、非難がましい台詞を口にしていた。
「……そのつもりはございません……ですが、あなた様の能力は本物であると認識しました。試験はこれで終わりに致しましょう」
不本意な顔になって答えたユニクスの言葉を耳にし、ココナッツ様はちょっと苦笑混じりになって答え、そっ……っと右手を翳す。
次の瞬間、魔導人形がパッ……っと煙の様に消えた。
まぁ、ココナッツ様がこんなまどろっこしい事をしているのは、純粋に死なれたら困るからやっているだけの話だ。
今のユニクスであれば、破滅の女神と対峙したとしても、どうにか生き延びてくれるだけの能力がある……それを証明さえしてくれたのなら、ココナッツ様もそれ以上の事はしなくても構わない。
よって、ココナッツ様は魔導人形を消したのだろうが、
「……なっ! なんで消してしまうのです! それでは私の気が済みませんっっ!」
ユニクスは『くわわっ!』っと、大きく目を見開いてココナッツ様へと抗議していた。
……何がしたいんだよ、お前は?




