キータ国とドーンテン一族と勇者様【19】
「……待って下さいリダさん! 勇者・ユニクスはまだ試験を突破しておりませんよ? せめて御褒美を与えるのであれば、試験を突破してからにして頂けませんか?」
「……ああ、なるほど……確かに」
程なくして、やや困った顔になって答えたココナッツ様の言葉を耳にし、私は『確かにそうだ』と納得してからユニクスへと顔を向けた。
「返しませんよ! これは我が家の家宝なのですから!」
しかし、ユニクスは全力で否定して来た。
お前の家宝は、近所の小物屋で税込500マールで買えるんだが? それで良いのか?
「私も良く分からないが……ココナッツ様の試験を通過すれば良いだけの話しだろう? ちゃんと通過した後に渡すから、それまでは私に戻しておけ」
私は少し苦笑混じりになってユニクスへと答えた。
ボンボン好きの私だけに、変えのボンボンを普通に持っていたりもするから、特段なくても困る様なレベルではないんだが……一応、そう言うルールになっているみたいだしな?
それに、ユニクスなら余裕でクリアするだろう……多分!
「仕方ないですね……それなら、もう暫くの間、リダ様の元にお返しします……しますけど、絶対に後で下さいね! 約束ですからね!」
「……分かってるから安心しとけ」
鼻息を荒くし、念を押す形で言って来るユニクスに、私は半眼状態になって声を返した。
幾ら私であっても、その程度の事で意固地にはならないし、小物屋で買ったボンボンの片割れ程度でムキになっているお前の態度と発言に、私は底なしの嫌悪感しか抱けないぞ。
しかしながら、もう上げると言ってしまった以上は撤回出来ない。
二度言う様で恐縮だが、私は自分の発言に責任を持つタイプの人間だからな!
「では、試験をクリアした時、勇者ユニクスが得られる報酬は、リダさんの髪留めと言う事にしましょう……本当にそれで良いのであれば、なのですが」
ココナッツ様は少し困惑する形で声を吐き出していた。
気持ちは分かる……だって、大量生産されている、変哲知らずのボンボンだもの。
しかしながら、それで本人は良いと言っているのだから、これ以上の事を言っても仕方ないのだ。
何より、ここでこじれると、またもや私の下着が欲しいと駄々を捏ねる危険性だってあるのだから……つまり、ここで話しは終わりにして置こうっ!
「では、最後はリダさんですね?」
ココナッツ様は言うなり、私の額に自分の右手を添える。
「……う〜ん」
右手を添えていたココナッツ様は、間もなく困った顔になった。
……?
なんだろう?
私の欲しい物で困っている模様だが?
おかしいな?
ユニクスじゃあるまいし、私が欲しい物で困る様な事はないと思うんだが……?
「リダさん……取り敢えず、用意する事は可能ではあるのですが、それで良いのですか?……キータ国内にも、選りすぐりの『ショタ』は居ます。居ますけど……」
「いやいやいやっっっ!」
かなぁ〜り困り切った顔になって言うココナッツ様に、私は顔を真っ赤にした状態で素早く両手をバタバタ振ってみせた!
「た、確かに、私はショタと言いますか……年下の美少年とか好きではありますが……リアルに彼氏が欲しいとか、そこまで思ってはおりませんよっっっ⁉︎」
「そ、そうなのですか?……それにしては、少し……ううん、かなりその性癖……もとい、趣向が見られると言いますか、濃密と言いますか……」
「わぁぁぁぁぁぁっっっ!」
尚も困惑し切った状態で、とんでもない事を口にするココナッツ様がいた瞬間、私は超弩級の恥ずかしさを言霊に乗せる形で、口から喚き声を放っていた。
「リ、リダ様……あ、あなた様はそこまでショタ系・美少年が……」
ユニクスはドン引き状態で私を見る……って、待って? ねぇ、待って!
「ち、違うぞ、ユニクス! た、確かにな? 私は結構年下が好きではあるんだけど、本当にリアル彼氏とかにするつもりはなくて……だな?」
「お? アリンのとーたまは、可愛い顔をした美少年になるお? そしたら、アリンは弟が欲しいお! 大切に育てるおぉぉっ!」
……って、アリンも余計な横槍を入れるんじゃないよっ!
無駄に鼻息を荒くして、地味に残念な事を主張するアリンがいる中……失意のどん底にいる様な表情になっていたユニクスが、
「……くっ! こうなったら自殺して美少年へと転生してやる!」
「早まるんじゃないよっっっ!」
いきなり、両手に聖魔一体の爪を装着しては、自分の頸動脈を切ろうとして来たので、ソッコー止めた。
「離して下さいリダ様! 私は、私は! リダ様好みの美少年になる為、この身を一度滅ぼす必要があるのですからっ!」
「転生しても、必ず人間に産まれるか分からないだろうが! つか、ふざけた事言ってないで、試験に集中だ、集中!」
「無理です! リダ様の好みになれない限り、私の瞳は……この熱き涙は止まりません!」
……その後、ユニクスの暴走を止めるのに一時間程度の時間を無駄にするのだった。




