キータ国とドーンテン一族と勇者様【18】
「……え? 勇者ユニクス抜きで、破滅の女神と戦うおつもりなのですか?」
私の言葉を耳にしたココナッツ様は、かなり驚いた顔になって眉を寄せて来た。
直後、ユニクスも猛然と私へと叫んで来た。
「そうですよ、リダ様! 私は勇者・ユニクス! 勇者たる物、如何なる困難をも乗り越えて行かなければならない、唯一無二の存在なのですからっ!」
人の下着を欲しがる勇者に言われたくないのだが?
「……はぁ」
私は重々しい吐息を吐き出してから、ココナッツ様へと答える。
「根本的に、解決すれば良いのでしょう? それなら、勇者・ユニクスを抜きにしても大丈夫……私が前に出ますよ。確か……えぇと? なんでしたっけ? ドーンテン一族は代々ココナッツ様をお守りする戦士の末裔だったんですよね?」
正直言うと、こんな良く分からない……取って付けたかの様な理不尽極まる家系の話しをされても困るのだが、ユニクスに私の下着をやるよりは何万倍もマシだ。
思った私は、こじ付け同然の様な話しを強引に蒸し返しては、自分なりの主張をしてみせた。
「そうですね。私が知るドーンテンの末裔であるのなら……そして、貴方の先祖が私へと誓った忠義を、末裔であるリダさんも行なうとするのなら、私にとってアナタはユニクスさんよりも大切です。だって、貴方は私に取って大切な家族も同然の存在になるのですから」
ココナッツ様は柔和に微笑みながら答えた。
……家族同然の間柄なのね。
ぐぅむぅ……私の先祖は、女神ココナッツとかなり親密な付き合いをしていた模様だ。
もちろん、そんな事は私にはサッパリ分からない。
序でに言うと、興味すら湧かない。
けれど、まぁ……良いや。
ユニクスに自分の下着なんぞくれたくないし。
「そうでしたか……それならば、私もドーンテン一族の名に恥じない働きをしましょう!『余所者』の勇者など不要だと知らしめる為にも!」
私は(自分の下着を死守する為に)いかにもココナッツ様の側近であるかの様な演技を全力でしてみせた。
尤も? 演技と述べたが、ちゃんとやる事はやるつもりだ。
私は自分の言った発言に、しっかりと責任を持つ事が出来る人間だからな!
「そうですか……分かりました。それではリダさん……あなたにそこまでの覚悟があるのであれば、私の試験に見事合格し、その力を示してくれませんか!」
「ええ! もちろんですとも!」
だから、私の下着は勇者にやると言う思考を、今すぐに抹消して欲しい!
真剣な顔で私へとお願いして来るココナッツ様に、私も二つ返事で頷いた!
「ちょっ……リダ様! 今度はいきなり蚊帳の外に私を追いやるのですかっ! やってる事が目茶苦茶極端ではありません? どうして真ん中の発言をする事が出来ないのですかっっ⁉︎」
お前の願望が、変態の極みに到達しているからに決まってるじゃないかっっ!
一転して、いきなりユニクスが要らない子になりそうな空気が出来上がっている中、ユニクスがこの世の不条理を見たかの様な顔になって、悲壮感たっぷりの叫び声を上げて来た。
「じゃあ、せめてお前のご褒美内容を変えろ。お前にやる下着はない!」
「……そ、そんなっ! なら、他にどんな物があると言うのですかっ!」
「逆に、私の下着が欲しい以外の願望がないのか!」
かなり本気になって嘆くユニクスに、私は心の底から呆れ返った口調で叫び返した。
「リダ様の愛用品であれば、下着じゃなくても良いです! 例えば、そのボンボンでも良いです! もしくれるのなら、我が家の家宝にしようかと!」
「……はぁ?」
ユニクスの言葉に、私はポッカリと口を開いてしまった。
余談だが、ボンボンとは私の髪の毛を留めているゴム紐の事だ。
私は昔から髪止めにボンボンを使っている。
基本的には真ん丸のアクセみたいなのが付いている髪留めだな?
そして、本日の私が付けているボンボンだが……アリンとお揃いの物で、近所の小物屋から500マールで買った物だ。
ボンボンにしては少しお高いが、二つセットで税込500マールなら、そこまで高い買い物ではない。
何より……だ?
「こんな物で良いのなら、今直ぐにでもくれてやる」
私は答えて間もなく、ツインテールの片方に付いていたボンボンを外して、ユニクスに差し出した。
「おお、おぉぉぉぉっ! ほ、本当ですかっ! ああ! なんたる至福! なんたる僥倖っ! もはや、私の人生に悔いなしっ!」
……お前の人生は、税込500マール程度の価値しかないのかな?
どうにもツッコミ所が豊富なユニクスではあったが、喜んでいる模様だからヨシとしよう。
下着をやるよりは全然マシだしな?……でも、人が付けていたボンボンを、よだれを垂らしながらニヘラァ……っと笑って頬擦りするのはやめてくれないかな? 生理的に凄ぉぉぉぉく不愉快だからっ!




