キータ国とドーンテン一族と勇者様【9】
「んなっ⁉︎ ユニクス……アナタまで! 私はちゃんと核心的に述べている筈です! リダさんは始まりの女神を守り抜く聖なる一族の末裔であると!」
……いや、初耳なんだが?
まず、最初に言うべき言葉がそれなんじゃないのだろうか?
……いや、うん。
仮にその言葉を最初に言われたとしても、私は目がテンになるだけで終わったかも知れないが。
しかしながら、いかにも『ちゃんと言ってます』的な顔をしているのに、実は初めて答えている台詞である事実に全く気付いていない天然女神様には、私もちょっと呆れるしかない。
……てか、だ?
「あのぅ……始まりの女神って何ですか?」
「そこは最初に説明したではありませんか! キータ国を生み出した創世の女神の事ですよ!」
いや……だから、初耳ですってば。
一回も聞いた事のない女神の名前を聞かされていると言うのに、あたかも知っていて当然と言う感じの口振りをみせるイシュタル様。
ボチボチ、爆破してやっても良いんじゃないだろうか?
……でも、神罰が恐いので、取り敢えず今回は我慢した!
右手がフルフル震えて仕方なかったし、近くにいたユニクスが『リダ様! ここは我慢です! 気持ちは分りますが、耐えましょう!』と、かなり必死になって止めていたりもした為、どうにか耐える事が出来た。
だけど、そろそろ限界が近いぞっっ!
「始まりの女神様とやらが、私の先祖と深い関わり合いがある……で、当たっておりますか?」
心の中に溜まっていたフラストレーションを、どうにか根性で抑え込み……私は至って笑顔でイシュタル様へと尋ねてみせた。
「その通りです……ま、ここは先に説明した通りではあるんですがね?」
だから! その説明をいつしたと言うんだよっ!
きっとユニクスに『核心的な説明を一切してない』と言う部分を根に持ち……いかにも『私はちゃんと話してますから!』って事にしたいらしい。
なんて面倒な女神様なんだろうか。
「ここからは単刀直入に申し上げましょう? つまり、アナタは始まりの女神を助ける為にこの現代まで生きて来た一族の末裔なのです。アナタの中にはかつて女神・ココナッツを助ける為に生きた、側近中の側近でもある爆破王ドーンテンの末裔であるに、他ならないのですから!」
声高に叫ぶ感じのイシュタル様は、再び『ババーンッ!』っと大仰に私を指差した。
彼女は、相手に指を差さないと会話をする事が出来ない、悲しい星の元にでも生まれているのだろうか?
それはそれで、地味に残念な性質の持ち主ではあるなぁ……。
「爆破王・ドーンテン……ですか」
私は言う。
全く聞き覚えのない名前だった。
他方、ユニクスは何やら妙に合点が行ったとばかり。
「やはりリダ様のご先祖様は一味違いますね! 天下の爆破王を名乗っていたのですか! 現代のリダ様と何一つ変わりませんね!」
ドォォォォォォォンッッッッ!
ユニクスは爆発した。
余計な事は言わなくても良いんだよ!
「素晴らしい爆破ですね、リダさん? やはりアナタはかつての爆破王・ドーンテンの末裔に相違ないわ? それなら、キータ国はアナタにとって祖国も同然になるし、アナタの先祖が子々孫々まで守り抜くと誓っていた始まりの女神・ココナッツを守らない言われもない。そう思わないかしら?」
……思いませんねぇっ!
つか、それは飽くまでも私の先祖が言った話しだろう?
私本人とは全く関係のない話しじゃないかっ!
よしんば、子々孫々まで女神を助けると誓ったとしても……だ? 私は分家の分家だぞ?
本家本元を差し置いてやる様な事でもあるまい!
つか、だ?
「……キータ国にいる、本家のドーンテン一族はいらっしゃらないのですか?」
私はそれとなくイシュタル様へと尋ねてみた。
「……う」
すると、地味に口籠る。
そして、数十秒程度考える様な仕草をしてから……答えた。
「一応、居る事はいるのですがねぇ……いやぁ、なんと言いますかねぇ? やっぱり五千年と言う時間は長かったのでしょう」
「……まぁ、有り体に言っても短くはない時間ではありますね?」
「そうなんです……つまり、この五千年で本家となるドーテン家は完全に本来の力と言うか、家元が消滅してます。きっと家系図の様な物があったのなら、何処が本家なのかハッキリするかも知れないんだけど……もう、その家系図すらない状態で……つまり、何処が本家なのか分からないんですよ……はは、困ったね!」
イシュタル様は、まるで他人事の様に言った後、
「だから、この際……ドーンテン一族の血を色濃く引いているリダさんにお願いするのが、一番手っ取り早いと私は思ったのです! 丁度ユニクスの友人をしている様子ですし、私的に都合が良かったんですよ!」
それはアンタの都合だけだろうが!……と言いたくなる様な台詞を臆面もなく叫んでいた。
やっぱりこの女神様は、ダメなタイプの女神様だ!




