キータ国とドーンテン一族と勇者様【8】
「話しは聞かせて頂きましたよリダさん……あなたも、勇者のお供としてキータの国へと旅立ってくれるのですね?」
……と、そこでいきなり降って沸いたかの様な形で女神様が登場。
きっと空間転移魔法を使っているから、こんな煙の様に湧いて来る様な登場の仕方をして来るんだろうが、私的には地味に驚いたぞ。
しかも、しれっとアンポンタンな台詞を、腕組みしながらシリアスにのたまってくれちゃってるし!
「女神イシュタルよ……一つ聞きたいのですが……」
この際、おかしな登場の仕方をしているとか、アンポンタンな台詞をいかにも真剣に話して、その場の雰囲気を勢いで乗り切ろうとしているとか、そう言うのは敢えて考えない様にした上で……私は眉を顰めながら声を吐き出した。
本当にさぁ……この女神様も大概過ぎてさ……。
素直に物を申した日には、小一時間にも及ぶ説教になってしまいそうだったので、一切合切の話しを端折った上で会話を進めていた。
「単刀直入に言いますけど……ここに、私の出番とか皆無ですよね?」
「いいえ、ちゃんと役割……ううん、使命が存在しております。ドーンテン一族としての使命が……ね?」
「……はい?」
尚も真剣な顔になって口を動かして行く女神様の言葉に、私はポカンと口を開けてしまった。
ドーンテン一族としての使命?
ハッキリ言って初耳なんだが?
「あのぅ……それって、どんなこじ付けなんですか?」
地味に呆れ眼になって私が問い掛けると、
「んなっ! 全知全能なる最高神と言えるこの私が、こじ付けをすると思っているのですかっ⁉︎」
ええ、そりゃもうぅ……力一杯、こじ付けをして来ると思っておりますとも。
私の言葉に、イシュタル様は心外を露骨に見せて叫んでいた。
何やら、地味に腹立たしかったらしい……まさか、これで神罰とかないよな?
それとなく恐々とした心境に陥っていた頃、
「私は真実を語っているのです! リダさん……あなたの父方か母方……それがどちらなのかまでは分かりませんが、ドーンテンの苗字を持っている方の親が、キータ国出身ではありませんか?」
イシュタル様は、神妙な顔付きで私へと『びしぃっ!』っと指を差して来た。
何やら大仰な指の差し方だった。
あたかも私が悪者であるかの様な?
犯人はアナタです!……的な指の差し方をして来た。
ハッキリ言って、物凄く失礼な態度と言える。
これが女神様じゃなかったのなら、この時点で爆破モノだったろう。
しかし、相手が女神様だったので、流石に爆破する事だけはやめた。
爆破の仕返しに神罰とかされそうで怖いからなっ!
まぁ、そこはさて置き。
イシュタル様の言いたい事は、密かに分かる。
厳密に言うと、多少は心当たりがある……と言うレベルではあったんだが。
「確かに、私の父方の故郷はキータ国らしいと聞いた事はありましたが……それが何か?」
「ふっふっふっ! そうでしょう? そうでしょう! 仮にリダさんの父親ではなかったとしても、その親か更にその親……ともかく、先祖の代までズズズイッと遡れば、確実にキータ国の出身者へと行き着きます! これは、アナタがドーンテンと言う名前を持っている以上は、確定事項と言えるでしょう!」
「……はぁ、そうなんですね」
やたら勝ち誇った顔になって言うイシュタル様に、私は気の抜けた返事をしてみせる。
何が言いたいのか、今の私にはサッパリ理解する事が出来ないからだ。
そもそも、ドーンテンと言う名前に、どこまで特別な意味があると言うんだよ……?
「まだ分かっていない様ね、リダさん? アナタの体内に宿る……その聖なる血潮をっ!」
「……分りませんねぇ」
胸を張って断言するかの様に叫んでいたイシュタル様がいる中、私はひたすら目をミミズにした状態のまま声を返した。
取り敢えず呪われた一族ではないと言う事だけは分かった。
むしろ、清浄な方ではあった模様だが……どの道、ここで一定の納得を示したのなら、イシュタル様の都合に合わせた厄介事を、私までやる羽目になりそうなので、素直に頷きたくない!
「ここまで私が言っていると言うのに、何故分からないのですか!」
イシュタル様は『うきぃぃぃぃっ!』って感じで、思い切り熱り立った。
女神様の割りには、地味に短気なお方である。
そんな中、ユニクスが地味に呆れた顔になってイシュタル様へと答える。
「そもそも、核心的な台詞など一言も述べていないからではないのか?」
そうと答えたユニクスの言葉は、見事に正論だった。




