キータ国とドーンテン一族と勇者様【3】
……と、こんな感じで、どうにか騙し騙し…………い、いや! あれだぞ? これは比喩的な意味であって、本当に娘を騙していると言う意味ではないぞ?
実はしれっと騙してはいるんだけど、そう言う意味ではないからな!
………。
そこはともかく。
どうにか闘技場へと向かわせていたアリンであったが、今ある結末がやって来るとは夢にも思わなかったらしい。
「……アリンの勝ちで良いんだお?」
「その様です……ねぇ」
アリンの言葉に、審判は地味に曖昧な台詞を口にする。
実際、審判も半信半疑だった。
こんな形で、戦うよりも早く棄権同然の降参をして来る……なんて、本来であれば予想出来ないからなぁ……。
だからと言うのも変な話しではあるのだが、
「ええ、アリンちゃんの勝利で間違いありませんよ? 私は四位……これでも十分過ぎる程の戦績です。後から本人が戸惑わなければ良いのですが……」
イシュタルが念を押す形でアリンへと答えて来た。
地味に不自然な喋り口調ではあったんだけど、降参を認めると言う意味だけはちゃんと伝わっただろう。
「そうなんだお? やったお! か〜たま! 勝ったお! これで約束してた、限定プラムちゃんの他に、華岳ちゃんも買って貰えりゅ!」
誰もそんな約束などしてないが?
「やりましたね! アリンちゃん! 流石は、私の親友です! 三面六臂の大活躍でした!」
秒で試合が終わっているんだが?
「ありがとう、ルゥちゃん! か〜たまから限定版のプラムちゃんと華岳ちゃんを手に入れたら、一緒にお人形遊びをやりゅんだお〜っ!」
だから、二体も買うかよ!
観客席からやって来たルゥの声援(?)を受け、アリンが瞳をキラキラしながら手を振っていた。
見る限り、激戦を制したアリンを称える感じの台詞を飛ばしている様に見えるが……もちろん、そんな戦いなんぞなかった。
どうして、私の周りにいる連中は、こうも茶番が好きな奴が多いのか……?
そもそも、
『あのぅ……これはどう解釈するのが良いのでしょうか?』
放送席にいたインさんも、どんな実況をして良いのか分からず、思い切り困った口調で声を出していたんだが……こっちが現実だ。
『う! どうせ、12レースは盛り上がらない! お客も11レースが終わったら『帰りの電車に乗る前にラーメンでも食べて帰ろうかな〜?』……って気持ちになっているのだ! う! よって、これで良いと思う! どうせ、ここで真面目に解説してもしなくても、ギャラは一緒!』
そして、お前はしれっと身も蓋もない事をほざくんじゃないよ!
明らかに剣聖杯とは関係のない解釈で物を言うシズがいた。
本当に、コイツはフリーダム過ぎて草も生えないぞ。
取り敢えず、放送席からやって来る声は無視した。
聞くだけ疲れそうな気がしてならないからだ。
どちらにせよ、これで剣聖杯の全日程が終了した。
優勝と準優勝は、去年と同じ。
そして、三位にアリンが入賞する形で、今回の剣聖杯は無事に終了して行くのだった。
以後、授賞式を受け、私とユニクス、アリンの三人がそれぞれ表彰を受け……閉幕。
その後、ダークホースとも言えるだろうアリンとイシュタルに、世界各国に所属する協同組合の上層部からやって来たスカウトマンが無駄にやって来ていたんだけど……余談程度にして置こう。
◯◯◯◯●
「やっと終わったなぁ……」
剣聖杯の日程を終了し、同時に開催されていた学祭を軽く楽しんだ後、私は軽くのびをしながらも言ってみせる。
気付けば、太陽も真西へと沈み掛けていた。
「アリンも、メチャクチャ疲れたお……」
程なくして、私の隣を歩くアリンが力無く呟く。
疲労困憊を顔にアリアリと出していたのは他でもない。
世界中にある、ありとあらゆるスカウトマンによってもみくちゃにされていたからだ。
前年度の大会がかなりの高レベルであったから……と言うのもあってか? 今年の大会は、今まで以上に世界中の各種組合関連の人間が目を光らせていたのだ。
最終的に『冒険者組合の秘匿事項で理由は不明だが、スカウト不可』であった私の娘……と言う、スカウトマンからすれば、どうにも腑に落ちない理由で、スカウトする事が出来ないと分かり、すごすごと退散して行く事になるのだが、その前までは見事なアリン争奪戦状態。
もう、何を言ってもアリンを自分達の所属する組合に入れたいオーラで充満していた。
ただ、気持ちは分かる。
特に、最後の最後まで引き下がらなかった冒険者組合・トウキ支部のスカウトマンと、魔導師協会・トウキ支部のスカウトマンの二つは、アリンを本気で欲しかったのだろう。
冒険者としての能力は間違いなくズバ抜けた人材になる事は間違いないし、魔導師に関してもやはり同じであったからだ。
けれど、悲しいかな……アリンちゃんはまだ三歳なわけで。
親としては、まだまだ社会人をさせるには早過ぎると思っているのだ。




