加護と剣聖杯と勇者様【22】
瞬発的に、周囲にはキラキラしたプリズムで一杯になる。
おおぉ……っ! っと、闘技場の外側にいる観客席からも感嘆の声が漏れた。
その気持ちは良く分かる。
四方に霧散したプリズム達は実に幻想的で……かつ、神秘的な優美さを同時に兼ね備えていたからだ。
まるで光の花吹雪だ。
観客も、プリズムの花吹雪が見れるとは思わなかったに違いない。
四方八方に舞い散ったプリズム達は、間も無く虚空の彼方へと消えて行った……様に見えた。
けれど実際には違った。
虚空の彼方に消えたと思われたプリズム達は、そこから透明な膜の様な物を上空で作り出し、頑強な魔導防壁へと姿を変えて行ったのだ。
「……これで、多少の事ではビクともしません。さぁ、互いにベストを尽くして戦いましょう? 悔いを残さず、全力を尽くして。真剣勝負はこれからがスタートですよ? 頑張りましょう!」
爽やかな笑みのまま答えたイシュタル。
……ふむ。
「なるほどなぁ……」
私は周囲を軽く見回しながらも声を吐き出して行く。
イシュタルの言っている事に間違ってはいない。
魔導防壁に似た、強靭かつ堅牢な壁の様な物が生まれているのが分かる。
無色透明であった為、パッと見る限りではそこに壁の様な物が存在している様には見えないのだが……視覚的な物ではなく、魔力エナジー的な物で感じ取ると、そこに凄まじいエナジーから構築されている、とてつもない魔導防壁が張られているのが分かった。
流石は女神様……とでも言うべきか?
素直に言うのなら、私が作り出した魔導防壁と比較すると、防衛能力が格段進歩している。
四方には、魔法陣の類いだろうか?
何やら、特殊な文字を使用した魔法陣の様な物が出現していた。
文字を見る限り……これは……ぐぅむ。
恐らくなのだが、古代文字だな?
なんとなくだが、みかんが主に使用している文字に似ている。
ここから考慮するのなら、この時代であれば消失魔導と呼ばれる魔導文字を使用しているんじゃないのかなぁ……うーん、私には良く分からないや。
素直に言うのなら、私はあんまり魔導が得意ではない。
今は、結構地道に努力したので、幾らかは理解や知識が広がって来たが、専門家などから比較すれば、やはり私の知識や魔導力はまだまだと述べても良いだろう。
ま、どちらにしても、だ?
「これで、心置きなく戦う事が出来る……って事か」
その気になれば、レベル8はもちろん……私にとっての限界でもあるレベル9まで上昇させても問題は無さそうだ。
そう考えるのなら、やはり女神様の能力は凄まじいな!
「そうですね」
私の言葉に、ユニクスも短く返答し、コクンと相づちを打った。
……ふむ。
軽く相づちを打つ、その姿を見る限りで言うのなら……どうやら、まだユニクスは何かを隠している気がする。
つまり、まだ完全に本気を出していると言う訳ではないと言う事だ。
「なんだよ? まだ隠している物があるのか?……おいおい。私を前に、まだ本気を出してないってのか? 良い度胸をしているじゃないか?」
私は、少しばかり好戦的な笑みを緩やかに作りながら言う。
別段、ユニクスがまだ何かを隠している事に憤りを感じている訳じゃないんだ。
むしろ、まだなんらかを隠し持っているのなら、私なりに一定の興味を抱くレベルだ。
今の時点で、ユニクスの能力上昇には驚かされている。
だが、今以上の何かを持っていると言うのなら……こうぅ……高揚が隠せないんだが?
「意図的に隠していた訳ではありませんでした……ですが、そうですね。リダ様もリダ様で私に一定の手加減をしていた事は、なんとなく感じていました。それだけに、私もこれを使って良いのか? 少し躊躇していたのです」
「……ほぅ?」
ユニクスの言葉に、私は少し意外そうな顔になっていた。
確かに、私は本当の意味で全力を出してはいない。
だが、かなり本気に近い状態まで、そのレベルを上げていた。
簡素に言うのなら、私が本当の意味で本気を出して居ない事を、ユニクスが悟るとは思わなかったのだ。
そして、その上でユニクスは敢えて自分にも一定の枷を付けて居たと言うのなら……?
「そうか……なるほどな? じゃあ、ここからはお互いに本気だ。私は自分の全部をお前にぶつけるし、お前も私に自分の全部をぶつけてやる!」
「分かりました! 私の熱い想いを全てぶつけます!」
そう答えていたユニクスは、瞳をキラキラ輝かせていた。
その意気だ!……と言いたい所だが、ちょっと待て?
何故か妙に興奮している気がするんだが?
何故か口元からよだれが出ている様な気がするんだが?
………。
「どうでも良いが、全てと言っても、劣情は抑えておけ? そう言うのは基本的にいらないからなっ⁉︎」
「えっ! 全てと宣言していたではありませんかっ!」
ユニクスは『ガーンッ!』って顔をして、徐にショックを受けていた。
そう言えばコイツはこう言うヤツだったよ!
本気の攻防戦で負けたら、何をされるか分からないヤツだったよ!
もう、絶対に負けられないっ!
私は、自分の操を守ると言う……元来であれば、考える必要もない所で、強い闘志を抱く事になるのだった。




