加護と剣聖杯と勇者様【20】
他方、その頃……放送席では、シズが唸りながらも解説をしていた。
『これこそが、勇者の常時発動能力『全てを守り抜く勇気』と『何者にも屈しない勇気』なのだ、う! 全てを守り抜く勇気には特殊効果があって、どんなに強烈な一撃であろうと、その一撃は『必ずギリギリで凌げる』と言う効果があるのだ! 分かり易く数値で言うと、例えば体力が100の人が101のダメージを受ければ、体力は100しかないのでノックアウトしてしまう……しかし、全てを守り抜く勇気が発動している勇者の場合は、仮にこのダメージが1000であろうと一万であろうとも体力はギリギリ1が『必ず残る』為、全てを守る事が出来る! 更に体力がギリギリ……つまり1の状態が、次の常時発動スキル『何者にも屈しない勇気』の真骨頂! この状態こそが、勇者の能力を限界ギリギリの最大限まで発揮する事が出来るのだ! う!』
シズは、周囲にいる観客へと解説者らしく説明していた……してたんだけど、だ?
私の方は、シズの説明を聞いている余裕なんぞないっ!
体力のギリギリ……つまるに、ユニクスの能力が最大限まで到達している為、防御するだけで手一杯な状態になっていたからだ!
幸い……ユニクスの体力は、龍の呼吸法【極】によって徐々に回復して行った事もあり、最初の一撃さえ抜かせば、レベル7でもどうにか捌き切れる程度の能力まで低下していたし、時間の経過がそのままユニクスの体力回復に繋がった為、技のキレや動きが目で見て分かるレベルで低下して行くのが分かったが……それでも、レベル7では防戦一方の状態と言えた。
挙げ句こちらが攻撃を加え、よしんばユニクスにダメージを与えたとしても、ユニクスの能力上昇に繋がってしまう為、下手な一撃を加える事が出来ない。
さっきの様に、一瞬だけ一撃を加える……と言う手を使っても、ギリギリ耐える上に、能力が限界まで上昇する為、二撃目を瞬時に与えるのは難しい。
せめてレベルを現状の最大と言えるレベル9まで上昇させる事が出来れば、それも可能ではあったのだが……レベル9まで上昇させてしまえば、その時点で魔導防壁が瞬時に決壊してしまう可能性は否めないだろう。
むしろ、今でもかなりガタが来てるんじゃないだろうか?
下手をすれば、レベル9はおろか……レベル8でさえ瞬間的に上昇したのなら、その瞬間に魔導防壁が崩壊し……この場にいる観客を全て吹き飛ばしてしまいそうな勢いだ。
……くそ、どうする?
悔しいが、ここは素直に負けを認めるべきか?
私の下らないプライドの為に、観客の安全を無視する事など……出来ない。
多数の死傷者が発生するだろう大惨事を、自分のちっぽけな自尊心と天秤に掛ける訳には行かないのだ。
……思った私は、
バキィィッッッ!
ユニクスの攻撃を喰らう。
頑張れば避けれない攻撃ではなかった。
ついさっきまでの私であれば、右腕でガードするなり、いなすなりの行動を取ってどうにか防いでいたのだが……今回に関しては自分から喰らう形で、顔面にクリーンヒットを受けた。
それと同時に、私は後ろへと大きく吹き飛ぶ。
正直に言うと、実は吹き飛んだのではなく『自分から飛んで』いた。
その結果、私は闘技場の範囲外……つまり、場外まで吹き飛んでいたのだ。
もちろん、場外まで吹き飛び……そのまま背中に地面が着けば、そのまま場外負けが確定する。
……そう。
私はこのままユニクスの攻撃を受け、吹き飛ばされた結果、場外負けの判定を受けようとしていたのだ。
そして、場外へと背中から落ちる……予定であった。
……が、しかし。
ガシィッ!
その背中は、何故か身体全体を使って抱き締められる様に押さえ付けられた事により、地面へと落ちる事が免れた。
……って、オイ。
「余計な事をするなよ……女神様」
私は半眼になってぼやきを入れる。
見れば、正面に立っていたユニクスも、ちょっと驚いた顔になっていた。
しかし、その反面、
「リダ様……今の攻撃……わざと受けましたよね? しかも、自分から飛んで場外に落ちようとした……どうしてですか?」
どうにも腑に落ちないと言わんばかりの口調で、ユニクスは私へと尋ねて来た。
きっと、ユニクスからすれば面白くなかったのであろう。
当然と言えば当然だった。
さっきまでお互いに悔いの残らない戦いをするかの様に、全力で戦っていたのだ。
そんな真剣勝負の最中……いきなり、私が勝負に水を差すかの様に、自分から場外負けを選択して来たのだから。
もちろんユニクスからすれば不思議な行動であったろうし……同時に不服でもあっただろう。
しかしながら、そこには理由があった。
このまま行けば、魔導防壁が確実に崩壊してしまう。
観客に多大なる被害が生じてしまう。
……そして。
「リダさんは……優しい心の持ち主ですね? 臨界状態にあった魔導防壁の状況を見抜き……自分がわざと負ける事で、この危機を救おうとしました。自分の勝利よりも人命を尊んだその意思は……まさに、称賛に値します」
全てを見抜く女神様の姿があった。




