加護と剣聖杯と勇者様【17】
一斉に飛びかかる八人の私を前に、ユニクスは……っ⁉︎
ガッッッ!
私は慌ててガード態勢を取る!
直後、ユニクスの右拳をギリギリで防ぐ私がいた。
……うん、なるほどなっ!
八人いる私が居た筈だと言うのに、ユニクスは『本体の私だけ』しか見てなかった。
他七人は単なる残影……その種を知っていても尚、本体を見極める事は困難だろうと踏んでいたが……その考えが如何に甘かったかを知る。
ユニクスは、極めて的確に本体を見抜き……七人の残影に隠れるかの様にして動いていた『筈』の私目掛けて右拳を向けて来た。
「やるなぁ……ユニクス」
ユニクスの右拳をガードした所で、周囲にいた七つの残影を消しながら、私は唸る様な声を吐き出した。
「まさか、リダ様にここまで褒められる事になるとは思いませんでしたよ……ふふ」
他方のユニクスは、やんわりと瞳を細めて微笑んだ。
地味に妖艶かつ……余裕のある笑みだった。
………。
レベル7でこれかよ。
ユニクスなりに努力をしてはいたが、今のユニクスが持つ実力の大半は匿名希望の女神様から貰った、勇者の力から来ているのは明白だ。
なんか、勇者ってやっぱり恵まれていると言うか、なんと言うか。
本当に、こっちは色々と真面目にトレーニングして地道に強くなっていると言うのに……。
なんとなく、地道に頑張っている自分が馬鹿らしくなる。
この時点でユニクスの強さは、いつぞや戦ったチャンピオン以上の能力があると言う事になるのだから。
「私は嬉しいんですよ……これで、名実共にリダ様の右腕として戦う事が出来る」
少し間を置いてから、ユニクスは微笑みのまま私へと言った。
この言葉に嘘はないと思う。
ユニクスの表情を見る限り、一抹の嘘を言っている様な表情には見えなかった。
実際問題、ユニクスは自分なりに思っていたのかも知れない。
私と肩を並べる事が出来ない、自分なりの不甲斐なさを。
去年の今頃。
まさに、前回の剣聖杯では、ユニクスは私に次ぐ有力な実力を持つ存在……と言う立ち位置だった。
当時はまだ勇者ではなかったが……反面で、フラウの姉貴分として存在し、勇者の天啓を受ける奇跡を達成し、転生前が悪魔と言う特殊な勇者であるが故に、極めて濃密な光と闇の二つを持つ実力者になっていた……筈であった。
しかし、以後のユニクスに活躍の場はなく……気付けばアリンにも実力で抜かされてしまい、黄金島では完全なるお荷物キャラとして生き恥を晒す羽目になってしまった。
私としては、それはそれで構わないと思っではいたのだが……きっとユニクスなりに大きな引け目と劣等感を抱いていたに違いない。
……が、しかし。
「本当は、勇者の力なんて必要ない……私が必要としているのは、リダ様のお側に立って居られる事。あなた様と共に戦い、共に生き、共に笑いたい……それだけです。それが叶うのであれば、いけ好かない秩序を振り翳す女神から力を借りる事になろうと、喜んで能力を得ましょう!」
ユニクスは胸を張って答えた。
自分の信念は二の次で答えたユニクスの表情は……悔しいかな、なんとも天晴れな物だ。
ユニクスは悪魔としての記憶をしっかりと持っている。
だからこそ、今の実にひねくれた性格に繋がっているのだが……まぁ、そこはヨシとしよう。
問題は、悪魔として生きた時間がある以上、秩序と言う概念は生理的に受け付けない傾向にあると言う部分だ。
これは、生まれながらにして秩序が存在している世界に生きている私の様な存在と、根本的に秩序と言う概念になんぞ最初から縛られて居なかったユニクスとの差だ。
育って来た環境の差と述べても良い。
生まれた時から、混沌の世界に生きていれば、そもそも秩序はないに等しい。
これが何を意味するのか?
例えば、規則や法則と言う物が皆無に等しい。
化学にしても魔導にしても、ちゃんと一定の理論が存在し、なんらかの法則性に則って動いている。
この世界に秩序が存在する限り、この法則は絶対だ。
法則を捻じ曲げる事など、限りなく不可能と述べて良いだろう。
しかしながら、混沌の場合はこの限りではない。
混沌には、ありとあらゆる法則がない。
消滅しているとか、消失しているとかではなく……ないのだ。
理由も簡素な物で、混沌から創造が生まれ……秩序が形成されて行くからだ。
秩序と言うのは、言うなれば混沌の完成版みたいな物と言える。
そして、秩序もまた同じで、次の混沌へと進む新しい序曲でもある。
この話しをすると長くなるから割愛するが……つまるに、秩序と混沌は繰り返されれる輪廻の輪と同じ様な物で、破壊と誕生は常に表裏一体であるが故に、どっちが完成された物とか、どっちが祖であるとか、そう言うのはなく……言うなれば、どちらも祖であり完成された物なのだ。
誕生は破壊の始まり。
破壊は誕生の始まり。
抽象的に言うのなら、卵が先か、鶏が先か?……これと言っている事は同じで、どっちが先なのか分からないし、真剣に突き詰めようとしたら頭が痛くなってしまう程の面倒な案件なのだ。




