加護と剣聖杯と勇者様【11】
「……これで分かったか? つまり、お金のない人や苦学生に優しいサービス品である反面、ポテトやドリンクを付けると言う『従来のサービス』を受けたいのであれば、ダブル・チーズバーガーの方がオトクな値段設定になっている。よって、どちらにもメリットがある……と言う事だ」
バッタリ倒れた匿名希望の女神様がいる中、ユニクスは最後の締めとして言葉を纏めて来ると、
「認めないわ! だって、セットじゃなかったのなら、単品の方が安いなんて……おかしいものっ⁉︎」
倒れていた女神様がすかさずババッッ! っと立ち上がって食い下がって来た。
きっと、論破されたのが女神的に気に食わないので、一矢報いたいのだろう。
そういうのは良いから、さっさと真面目に試合してくれませんかねぇ……?
「じゃあ、お前は……ファーストフードに行って、ポテトとドリンクを頼みたいとは思わないのかっ⁉︎」
ユニクスは『くわわっ!』っと、気合を入れて叫び、背後に『ババーンッ!』って感じの効果音が生まれて来そうな勢いで右手を振り切って叫んだ。
「……っっ⁉︎」
この台詞に、女神様は衝撃を受ける。
あたかも、落雷の一撃でも受けたかの様なショックを受けた女神様は、そのままヘナヘナと力なくしゃがみ込んでから答えた。
「思うわ!……思うのっ⁉︎ ああ……ポテトとドリンクの誘惑に負けてしまうのね……私は……」
女神様は、ポテトとソフトドリンクに完敗した。
………。
いや、だから…………試合は?
「……ふ、負けたわ? 完敗よ? やはり、あなたは私が見込んだ勇者だった様ね?」
そこから、女神様は何かを悟ったかの様な顔になってユニクスへと答え、
「……審判さん、降参します」
ニッコリと笑みのまま審判へと降参の意思を示した。
「………はい?」
ユニクスはポカンとなってしまう。
無理もない。
だって、女神様が負けたのはユニクスではなく、ポテトとドリンクなんだもの。
そんな理由で、本当に降参されてしまったのなら、ユニクスだって面食らって当然と言えるだろう。
これが私であるのなら『こんな降参は認めない!』って感じの台詞を口にしていたかも知れないのだが、
「……言ったでしょう? 私がここに来た『目的』を。あなたは、もう既に分かっている筈よ? 私と一緒にウノをしたのだから……」
ニッコリと笑みのまま……常人には理解出来ない台詞をのたも〜た女神様がいた時、
「……なるほど。分かった。あの時は冗談かと思ったが……どうやら、冗談ではないと言う事か」
ユニクスは納得した……って感じの顔になって声を返していた。
出来れば、誰にでも分かる様な会話をした状態で納得して欲しい所だった。
まぁ……ここに関しては、ユニクスへと直接聞くしか、他に方法はないだろう。
確か『破滅の女神』とか言う、危険な香りしかしない話をしていた気がしたからな?
そして、ユニクスはその話をある程度までは、匿名希望の女神から聞いているんだろう。
毎日毎日……無駄にパーティ・ゲームをしに、ユニクスの夢へとやって来ていたみたいだしな?
「……ふむぅ」
私は軽く考える。
忙しいと言ってた割には、毎晩ユニクスの夢へと馳せ参じて来ては、パーティ・ゲームで連戦連敗し、悔しさで目蓋に涙をたくさん溜め込んだ挙句、最終的には涙と鼻水をぶん巻いて発狂していた女神様の証言を、素直にありのまま信じて良いのかは定かではないのだが……経緯はどうあれ、勇者としての能力をしっかりとユニクスへと渡したと言う事は、本当に勇者へと託す『何か』があるに違いないのだ。
そして、きっとそれは『事件』と表現しても生ぬるい……下手をするのなら、世界規模で大問題になってしまう様な……大乱に繋がる何か。
その何かに関しては、まだ私も正確には分かってない。
そして、可能であれば、
「……関わりたくないなぁ……」
私は誰に言う訳でもなく呟いた。
今回の一件では、勇者ユニクスが女神様から勇者としての能力を貰う事で、これから起こる恐ろしい事件を解決して欲しい……って内容だ。
そこに会長が出しゃ張る隙間はない!
つか、ないと言う事にしてくれないかっ!
100マール上げるから!
「……でも、巻き込まれるんだろうな……」
試合が終了し、決勝へと駒を進めたユニクスがクール・ダウンを取ると言う理由から、三十分程度の休憩時間になった闘技場を軽く見据えつつ……私は、どこか遠い目になって呟いた。
◯◯●●●
剣聖杯も準決勝までの全てが終了し、とうとう残す試合は決勝戦のみとなった。
厳密に言うと、三位決定戦が決勝戦の後にあったりもするんだけどな?
……普通、順番的に言うのなら三位決定戦の方が先にやる物じゃないのか?
決勝ってほら『ファイナル』って言う位だし。
……いや、まぁ……どっちでも構わないんだけどさ。




