加護と剣聖杯と勇者様【10】
もはや、女神様の台詞であるとは思えない、ツッコミ所満載の内容に、なんとも言えないやるせなさを抱く私がいた頃、匿名希望の女神は跪いたユニクスの前に向かって、
ポゥゥゥゥ……
穏やかな光を向けた。
右手から現れたその光は、跪いた状態になっていたユニクスの額辺りを優しく照らす。
底無しの慈愛に満ちた……温もりに溢れつつも神々しさのある鮮やかな光は、しばらくするとユニクスの額の中へとスゥ……っと入って行き、そのまま消えた。
なんとも幻想的なシーンだった。
女神が神々しい姿で、無限の慈愛を以って勇者へと新しい能力を与えた。
……そんな、あたかも幻想ファンタジーの王道を行ってそうなシーンがリアルに展開されていた。
私的に言うのなら、ここだけ見たかったよ。
他の、なんか夢の中に出て来た話とか、聞きたくなかったよ!
ウノで12連敗して悔しがって、鼻水撒き散らしながら怒鳴ってた!……とか、聞かなければ素直に美しいシーンだと称賛出来たと言うのにっ!
けれど……もう、私は汚れてしまった!
あの女神が、真面目に女神様らしい事をするだけの存在になんて見えない!
果たして、女神は答えた。
「勇者ユニクスよ……これで、あなたにはどんな困難にも打ち勝つ事が出来る『勇気の力』が付与されました……この力を携え、多くの困難に立ち向かうのです。例えば『チーズバーガは一個140マールなのに、どうしてダブル・チーズバーガーは340マールもするのっ⁉︎ おかしいでしょっ⁉︎』と言える勇気が、今のあなたには備わったのです!」
やっぱり、この女神はちょっと論点がズレてるんですがっ⁉︎
「……いや、まぁ……それを言えたら、確かに勇者ではあるのかな?」
そして、ユニクスはポカンとした顔のまま、匿名希望の女神に対して声を返した。
すると、女神様は『くわわっ!』っと、表情を厳しい物に変えてから叫ぶ。
「もっと自信を持ちなさい! 力強く! 心を込めて言いなさい!『おお! それは素晴らしい能力ですね!』と、心から喜びなさい!」
……いや、無理だろ。
せめて、例えがもっと違う物なら良かったかも知れないが。
だからだろうか?
「チーズ・バーガーが140マールで、ダブル・チーズバーガーが340マールでも、全然おかしな話じゃないと言うか……別に、異を立てる程の事でもないだろう? 違うか?」
ユニクスは目をテンにした状態のまま言う。
「何を言ってるのですか! あなたは! 良いですか? ちょっと考えてごらんなさい? チーズバーガーは一つ140マール。二つでも280マールです? なのに、ダブル・チーズバーガーは340マール! この時点で異を唱えるに値すると思いませんかっ⁉︎ どうして高くなるのです? これなら、最初からチーズバーガーを二つ買った方がお得になってしまうじゃないですかっ!」
「……なら、あなたは二つ買えば良いんじゃ?」
「そう言う問題じゃないの!……ああ、あなたは分かってない……分かってないのね……勇者の癖に!」
勇者になれば、チーズバーガーの単品価格がダブルチーズバーガーの半分未満と言う部分にケチを付ける事が出来ると言うのだろうか?
もしそうであるのなら、私は勇者になんか、なりたくないぞ……。
「……はぁ、仕方ない。じゃあ、真面目に話してあげます」
駄々っ子の様な怒り方をして来る匿名希望の女神様を前に、ユニクスは少し諦めたかの様な表情になってから、口を開いた。
「まず、チーズバーガーだけど、この140マールと言う価格は『適正価格ではない』のだ。何なら、こんな値段じゃ商売上がったり。発売したばかりのプ○ステ本体価格と一緒で、売れば売るだけ赤字になる。言うなれば、これはお店屋さんの良心であり、サービス品。中高生の様なお小遣いだけしか自由なお金がない子や、貧乏な苦学生……その他、お金に困っている様な人であっても、気軽に美味しく食べて貰える様にする為、敢えて激安で販売しているから『二つ買っても280マール』と、ダブル・チーズバーガーよりも安い。これが一つ目の理由」
「……くっ!」
「次に二つ目なのだが、このバーガーに関しては飽くまでも『サービス品』である為、セット対象から外されている。つまり、ポテトにコーラを付けてしまう場合、セット価格で購入する事が不可になってしまう。すると……どうなると思う? チーズバーガーとポテトとコーラをそれぞれ単品で頼むと、ダブル・チーズバーガーセットと同額になってしまうのだ!」
「ぐはぁぁぁっっ!」
ユニクスの主張を聞いた瞬間、匿名希望の女神はバッタリ倒れた。
どうでも良いけど、この小芝居はいつまで続くのかな?




