リダさん、裏山探検に向かう【1】
前々から起こっていた、謎の異変。
何故か人間以外の別種族だけが強くなっていると言う謎現象。
まぁ、恐らくこれは伝承の道化師の仕業である事が分かって来た事なんだが......しかし、犯人が分かっただけで、問題が解決している訳ではない。
今の所は、そこまで深刻な問題にまでは発展していなかったし、私自身も直結した深刻な状況と遭遇していた訳ではなかった。
......が、しかし。
ここに来て、とうとう伝承の道化師がやって来た謎現象の脅威を実感する時がやって来たのだった。
ここ数日、裏山にあるダンジョンのレベルが異様に高いと言う噂が後を立たない。
正確に言うと、実際にモンスターが強くなっているのだから、それは噂でも何でもなく、本当にダンジョン全体のレベルが上昇しているのだろう。
かくゆう、フラウとパラスの二人はこの噂を聞き付けて、土日の連休で裏山のダンジョン攻略に出ていたとの事。
そう言えば、私がアインと激戦と繰り広げていた辺りから、フラウがパラスと一緒にどっかへ行ってたなぁ......良い感じでデートでもしていたのかと思っていたら、裏山のダンジョンに行ってたのか。
......さて。
ここで、裏山のダンジョンについて、軽く説明しておこうか。
冒険者アカデミーと言う名前の通り、この学園には近未来の冒険者を育成する目的から、練習用のダンジョンが裏山にあったりもする。
飽くまでも練習用なので、本物のダンジョンから比較すると結構簡単な内容になっており、仮に途中で倒されてしまってもダンジョン内にいる精霊が力尽きた生徒を助けてくれる為、死ぬ事もない。
練習用だからってのもあるけど、本当のダンジョンとはやっぱり造りからして優しいかも知れないな。
また、通常のダンジョンの場合、誰かがダンジョンを踏破してしまうと、次に来た人はダンジョンの復元が成されていない限りはボス等も撃破されたままだ。
所が、このダンジョンに限って言うのなら、学生証管理で出来ている魔法のダンジョンだったりするんだ。
つまり、個人がダンジョンをクリアしない限り、他の生徒がボスを撃破してもちゃんと存在しているし、宝箱なんかも他の生徒が開けていても、ちゃんと残っていたりもする。
......まぁ、練習用のダンジョンだし、対象が生徒だからって事もあってか? 中身は大した物なんか入ってはいないんだけどな。
また、生徒の実力になるべく忠実にしたい所を考慮して、階層も13階まで存在している。
13段階の難易度を設ける事で、生徒にあった難易度に限りなく近づけようと言う狙いだな。
一度クリアした階層は、次回はショーカットする事も可能だ。
入り口に魔導ゴンドラが設置してあって、生徒証をゴンドラに翳すと、生徒証からクリアデータを読み込んだ魔導ゴンドラがショートカット可能な階数を表示して来る。
この表示された階数までなら、このゴンドラを使用する事が可能になり、自分のやりたい階層からリスタートする事が出来るって仕組みだ。
......と、まぁ。
この様に、通常のダンジョンとは違う、学園専用のダンジョンが裏山にある訳なのだが、
「明日は、裏山探検に行こう!」
気合いを込め、強い語気で右手の握り拳をギュッ! とやっていたのは、魔導大国のじゃじゃ馬姫。
とにかく、興味が沸いたら即実行と言う......行動力があって結構ではあるんだけど、もう少し考えてからアクションを起こそうと言いたくなる様な猪突猛進娘でもある。
「藪から棒だな......なんで、いきなり裏山になんか行こうと思ってるんだよ?」
「え? だって、今、裏山がアツいんでしょ?」
別にアツい訳じゃないだろ......。
ただ、確かに裏山ダンジョンのレベルが最近、急激に上昇している関係もあってか? 生徒の間でも少し話題には上がっていた。
でも、私の視点からするのなら、それだけの話だ。
仮にダンジョンのレベルが上昇していても、今の私にとってはそこまでの脅威ではない......と言うか、そもそも脅威ですらない。
率直に言うのなら、修練にすらならないレベルだった。
前回のアインと言い......協会本部に潜んでいるらしい佐々木の存在と言い......私も、私なりのレベルアップを目指している所ではあるんだけど、
「そこに行く時間があるのなら、自主鍛練した方が強くなるんだよな......私の場合」
私はやる気の欠片も見せない顔してぼやきを入れた。
宇宙意思から新しく貰った睡眠学のスキルは、中々の代物だった。
実際に発動させて分かったのだが、寝てるだけで自分が鍛練する事が可能な空間へと向かう事が出来る。
これは、本当に便利であり、とてもありがたい事でもある。
今後を考えると、やはり多少なりとも努力をしておきたい。
ここは、しっかりと鍛えておかないとな。




