【3】
「フラウ・フーリ・ペッタン子だな? OK、覚えた」
「覚えてないし! なに最後に勝手なの付け加えてるの!」
私なりに納得が行く台詞を出すと、またもや激怒するペッタン子。
カルシウムを取った方が良いと思う。
「とにかく、ペッタン子。リダに決闘とか自殺願望ある様にしか思えないよ」
「あんたも大概なヤツだな!」
そこから、真剣な顔してルミにまで言われ、ペッタン子の怒りが最頂点に到達してた。
「ともかく! 私こと、フラウ・フーリはあなたに決闘を申し込みます!」
ビシィッ! と私に指を差すペッタン子。
さりげなく、名前を二回言っていた。
大丈夫、ちゃんと名前は覚えたから。
「まぁ、いいけどさ? どうせ三秒で勝てると思うし……」
「なっ! 大した自信ですね! この魔法少女フラウ・フーリを知らないとは!」
初耳だよ。
なんか、知ってて当然みたいな驚き方してたけど、私が分かる事は、あんたがペッタン子な事だけだ。
「良いでしょう! 常勝無敗の魔法少女たるこの私が、貴女の自信をぶち壊してあげますっ!」
こうして、グラウンドに呼び出される私がいた。
●○◎●○◎
「ふふふ………怖じ気づく事なく来ましたか! やって来ちゃいましたか!」
グラウンドに来た私を前に、ペッタン子は地味に凄味のある顔で言っていた。
本当、何がしたいんだか。
「わかったから、早くやろう。最初はペッタン子に先制させてやるから」
私は目をミミズにして言う。
「このぅ……まだ、私をペッタン子と言うかぁ!」
叫ぶと、ペッタン子は右手を天高く掲げて見せる。
同時にポンッ! と言うコミカルな煙が出て来て、ステッキを放出させる。
飛んで来たステッキはそのままペッタン子の右手に収まった。
刹那。
キュピ~ン☆
いきなり、ペッタン子が光った。
どんな大道芸だ?
思った直後に、ペッタン子が姿を変えた。
まぁ、変身した感じか。
魔法少女だしな、変身くらいするんだわな。
変身後のペッタン子は、身体が一回り程度大きくなって、服装も制服から、魔法使いっぽいドレスに変わっていた。
でも、ペッタン子だった。
「これでもう、ペッタン子だなんて言わせない!」
「いや、変わんないだろ?」
「二センチも大きくなってるんです!」
測ったのかよ?……暇なヤツだな。
「まぁ、良い。さっさと打て。ペッタン子」
「ペッタン子言うなぁっ!」
叫び、ペッタン子は右手のステッキを振り抜く。
その瞬間、私の前に無数の氷の矢が出現した。
そして消えた。
「………はぇ?」
驚いたペッタン子。
アイスアローかな? 今のは。
魔法で言うと中位の下程度の魔法だ。
今のは結構な数が飛んでたから、強さ的には中位の中くらいにはなっているかも知れない。
だけど、だ?
「B+ランク以上の冒険者なら、あんなの避けるまでもないぞ?」
「なら、これはどうです!」
今度は両手を天に掲げる。
………お
学生にしてはやるねぇ。
魔導式を頭で作り魔力を吹き込み、それを形にして行く。
しばらくすると、ペッタン子の両手には炎の槍が。
これは上位魔法レベルだな。
冒険者で言えばBランク程度の実力がないと、ちょっと扱えない。
簡素に言えば、発動させただけでも凄い。
でも、ちと演算時間が長いな。
「くたばりなさい! アグニ・ランス!」
巨大な炎神の槍が私へと真っ直ぐに飛んで来る。
直撃であれば、並の冒険者程度だと消し炭も残らない。
炎神アグニから力を分けて貰った紋様魔法を独自に改良し、炎の槍に変えた上位の炎系魔術と言った所だな。
ボゥゥゥッ!
けたたましい炎の轟音を上げて私の前まで飛んで来た槍だが、私の前でピタッと止まった。
「……な、なななっ!」
「おい、ペッタン子。魔法ってのはな?」
完全に驚きで『な』しか言えていないペッタン子を前に、私は魔導式を頭の中で描き、発動させる。
「こう使うんだ」
ゴゴゴゴッッッ!
その瞬間、辺りが揺れた。
同時に、紋様が地面に浮かぶ。
せっかくだから見せてやろう。
会長の……ラスボスの力を。
「な、なに? え? ええええ!」
驚きと恐怖で、ペッタン子の顔が真っ青になっていたのが分かった。
まぁ、殺しはしない。
精々、神に祈れ。
激しい地鳴りが続く中、紋様から全身炎に包まれた炎神が現れる。
「………」
あ、絶句する?
そこまで引かなくても良いのに。
そもそも、だな?
「お前がアレンジで使ってた紋様魔術の元だぞ? こいつは」
『……リダか? 久しいな? 何年ぶりになる?』
年がばれるから言わない!
「こっちにも事情がある。そこはノーコメントだ」
出現した炎神が、穏やかに私へと尋ねて来たが、その答えは言えなかった。
い、一応、十五才だからな!
「嘘でしょ………アグニが………本体が出て来るなんて」
ペッタン子は完全に戦意を喪失していた。