加護と剣聖杯と勇者様【7】
「……くっ!」
吹き飛ばされたユニクスは、途中で身体を捻らせて地面へと足から着地するも、
ドカァァッッ!
着地した所目掛けて、匿名希望(女神)の鉄拳が振り抜かれた。
「……なっ!……はぐわっ!」
匿名希望(女神)の鉄拳を受けたユニクスは再び吹き飛ぶ。
……しかし、それでもノックアウトまでには至らないと言うのは、ユニクスが無駄にタフだと言うべきか?
まぁ、普段から私の爆破魔法を受けているからな?
無駄に耐久力だけは鍛えられているんだろうよ。
何とも複雑な気持ちになってしまう私がいたのだが……タフなだけで戦闘に勝てる程、戦況は甘い物ではな買った。
「やはり、それが本気ですか? 全く……あなたは今まで何をしていたのですか? もう少し、勇者らしい努力をしようと言う気持ちはなかったのですか?」
「……こ、このぉ……夢のみならず、現実世界でも高慢な言葉を吐き捨てるなっ! 私だって真面目にトレーニングを積んでいたんだ!」
匿名希望(女神)の言葉に、ユニクスも素早く反論する形で叫び声をあげた。
実際、ユニクスがトレーニングをサボっていたのか? と言うと、ちゃんとやっていたと言うのが正解だ。
他の面々からすれば、冗談だろ? と言いたくなる様な苦しいトレーニングをしっかりとこなしていた事だけは間違いないのだ。
……まぁ、私からすれば、それでも全然甘いトレーニングだと思えるんだけどな?
バキィィッッ!
強烈な回し蹴りと同時に、周囲へと激音が巻き起こる。
凄まじいな?
単なる回し蹴りがヒットした筈なのに、まるで大きな乗り物か何かが衝突したんじゃないのか? って感じの一撃がユニクスの顔面を襲っていた。
常人であるのなら、これだけで即死級だったであろう。
もちろん、ユニクスレベルであるのあら、割と問題ないレベルのダメージしか受けてなかったろうが。
「……く、くそ……」
ユニクスは、顔を大きく歪ませてながらも声を吐き出した。
悔しさで顔が大きく歪んでいる……そんな感じだった。
「相手がリダ様であるのなら、私がここまでボロクソにやられても仕方ないと納得出来るが……こんな、良く分からない……たまに人の夢に出て来る、面倒臭い女にやられるのは心外だ!……ふごわぁっ!」
毒吐きを入れている間に、ユニクスは匿名希望(女神)の手痛い一撃を喰らっていた。
「面倒臭いとは何ですか! 私はあなたに天啓を与えた、ありがたい女神様だと、何回言えば納得してくれるのです? そして、あなたにはもう何回も夢の中で言っているでしょう! この大会であなたと対戦した時に、さりげなく勇者としての力を授けますよ?……と!」
全然ちっともさり気なくなかったけど、匿名希望(女神)はユニクスに向かって叫んでいた。
きっと、女神様の感覚で行くと、現状の状態ですら『さり気ない行為』だと思っているんだろう。
何処まで本気で言っているんだろうか?
「別に、私は勇者としての能力なんて欲しい……なんて、言ったか? 顔も良く分からないお前に? そもそも、要らないだろ? 第一、私が勇者の能力を得たとして、その能力を振るう相手がいると言うのかっ⁉︎」
直後、ユニクスは素早く反論した。
一応、女神様の攻撃はやって来ていたのだが、どうにか凌いで見せる。
……ふむ。
どうやら、女神様の動きに慣れて来た模様だ。
こういう適応能力と言うか、相手の動きをしっかりと観察して分析する能力に関して言えば、ユニクスはかなり優秀と言えた。
ついでに言うのであれば、ユニクスの言い分も決して間違いではない。
ヒーローと言うのは、相手がいるから周囲の人間に尊敬されるのだ。
特に大した相手も居ないのに、力だけ強かったら……それは、ただの乱暴者だ。
つまり、強い能力と言うのは、強大な敵がいて……初めて役に立つ代物であった。
しかし、ユニクスの言葉を耳にした瞬間、匿名希望(女神)は大きく怒りをあらわにし、
「だから! 何回も言ってるじゃないですか! あなたの力が必要となる、凶悪な存在が覚醒したと! 私はちょっと忙しいので、あなたが代わりに行って来てくれませんか? と、夢の中で何回言ったと思うのですかっ⁉︎」
「そんな数、一々覚えてなど居ないわぁっっ!」
匿名希望(女神)の言葉に、ユニクスは素早く叫んでいた。
つまり、本当に何回も何回も夢の中に出て来ては、同じ事を言われていた模様だ。
まぁ……女神様も必死だったのかも知れないが……毎回毎回言われていたのであれば、ユニクスも辟易していたんじゃないのかなぁ……と、地味に思う。
結局……毎晩、夢枕に出て来られたのなら、安眠妨害も甚だしいからなぁ……。




